気象庁では日本全国16か所の気象官署で世界標準時の0時と12時に
高層気象観測を行っている。これはラジオゾンデを気球に載せて気圧、気温、湿度等を測定し、高度30 km近くまでの高層観測を行うものである。同時刻に世界各国でいっせいに行われている。
1948年からの世界中のデータがアメリカNOAAの一部門National Centers for Environmental Predictio(NCEP)に集約されている。しかしながらこれらのデータはラジオゾンデの種類の変更による測定誤差の問題や、気温が低く水蒸気量が少ない高層・高緯度でのデータ精度がよくないとされ、ここから一定のトレンドを検出するのは従来から困難とされていた。Paltridgeらはこれらの点を考慮して精度に疑問がある1973年以前のデータや高層・高緯度のデータを除いて1973年から2007年まで35年間の気温、Relative Humidity RH(相対湿度)およびspecific humidity
q (比湿;湿潤大気中の水蒸気質量の割合)の変化傾向を検討した。検討域の
q は0.5 g/kg以上ありこれは気温にすると熱帯域では-30℃以上、中緯度では-20℃以上に相当している。これらのデータを日々の天気予報に使用している全球モデルに入力し再解析を行い、全球の変化傾向を分析した。
再解析データは緯度経度2.5°の格子に分割され高度は1000~300 hPaまで8段階の標準高度(1000、925、850、700、600、500、400、300)に分類されて出力される。熱帯域(20°N~20°S)は高度300hPaまで、中緯度(20°~50°)は両半球とも500 hPaの高度まで(夏季のみ400 hPa)を再解析した。これらの再解析データからそれぞれ地域ごとに月平均を算出したのが下図である。
図を見るとこの35年間において対流圏下層ではRHおよび
qともに増加傾向にあるが高層ではどちらも減少傾向にあることがわかる。RH および
q の増加傾向から減少傾向の境目はだいたい850 hPaあたりに存在し、増加傾向は大気境界層に相当しているように見える。それより上の高度の自由大気ではRH および
q ともに誤差範囲は大きくなるものの減少傾向にある。これらはコンピュータの再解析によって内挿されたデータから導かれたものであるが、熱帯域のラジオゾンデのデータだけ(格子数は2 %未満)でも下図のようにおおむね同様の傾向が示されている。また中緯度域データでも同様の結果であり(論文中には非表示)コンピュータによる再解析が実際の観測データに比べて著明に異なった傾向を導いたわけではないことが言える。
ラジオゾンデの観測データからは対流圏高層の水蒸気はこの35年間減少傾向にあることが示唆された。一方、この35年間に地上の世界平均気温は上昇したとされている。たとえば
気象庁HP。
個人的にはこれらのデータは額面通りには受け取れないものの、傾向としては間違ってはいないと考えている。さてここで問題が起こる。CO2倍増時にとんでもない平均気温の上昇を予測している気候モデルには対流圏全体の気温上昇に伴って水蒸気量も増加しRHが不変であるという前提条件が組み込まれているのである。つまり気温が上昇して飽和水蒸気圧が増加すると含有される水蒸気量も増加しRHは常に一定にadjustされている。そしてその水蒸気の赤外活性(温室効果)によってCO2倍増単独による地表の昇温効果を2倍以上に増幅する仕組みになっている。いわゆる水蒸気フィードバックである。ところが、図を見ると明らかなように観測結果からはRHおよび
qの値は850 hPaの高さの
大気境界層内に限局しており、上方の自由大気には予測ほど水蒸気の移送が行われていないことが示唆された。
IPCCやモデラーなどが脅しに使用しているこの温度上昇の必殺技が観測事実と矛盾することになるが、温暖化論者はラジオゾンデによる観測データはunreliableという得意の決まり文句で無視を決め込むのだろうか。(笑)また彼らの理論によると熱帯対流圏上層に温度の高い領域、
hot spotの出現が必須であるが、これも観測では認められていない。これについて
日本気象学会九州支部第11回 気象教室において気象研究所の吉村純は「それは観測が間違っている」と言い放った。私のような凡人は自分が建てた仮説が観測結果と違うとき、仮説が間違っているのではないかとまず考えるのだがどうもモデラー連中の思考過程は違うようだ。あくまでも自分の理論に絶対の自信を持ち、自己の理論に都合の悪い観測結果は無視する。彼らにとってコンピューターの中だけが世界の真実なのだろう。(笑)とはいえ、また温暖化論に必要不可欠の「水蒸気フィードバック」理論の重大な矛盾が観測データから突き付けられたことになる。もういいかげんに目をさまして現実を見つめてはどうだろうか。
参考論文
Paltridge, G.
et.al T
rends in middle- and upper-level tropospheric humidity from NCEP reanalysis data.Theoretical and Applied Climatology: 10.1007/s00704-009-0117-x.(2009)
[11回]
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