Abbreviations
NOAA(National Oceanic and Atmospheric Administration):アメリカ海洋大気圏局
NCDC(National Climatic Data Center):国立気候データセンター。NOAAの下部組織。気候記録を担当。世界地上気温データ、GHCN2(Global Historical Climatology Network version2)およびその米国版USHCNを編纂。ディレクターはClimategateにも登場するTom Karl。
NASA(National Aeronautics and Space Administration):アメリカ航空宇宙局
GISS(Goddard Institute for Space Studies);NASAの一部門。世界地上気温データGISTEMP3を編纂。トップは冷房を止めた議会証言で有名なJames Hansen。
UEA(University of East Anglia):英国イーストアングリア大学
CRU(Climatic Research Unit):UEAに併設された気候研究所。世界地上気温データCRUTEM3を編纂。Hadleyセンターの世界海面水温データと合わせて世界気温データHadCRUT3を編纂。前所長はClimategateで名を馳せたPhil Jones。
RSS (Remote Sensing Systems):衛星観測による世界気温データセット。
UAH (University of Alabama at Huntsville ):アラバマ大学による衛星観測による世界気温データセット。
1.世界規模での観測ステーションの減少
以前のエントリーでCRUによるロシアの気温の改ざん疑惑を取り上げたが、実はこれには後日談がある。疑惑はClimategate事件の中心人物Phil JonesなどCRUに向けられたものであるが、彼らはNOAAからもらったデータをそのまま使用しただけで濡れ衣だったようだ。D’Aleo and WattsによればすでにNOAAの段階で世界的な規模の観測ステーションの「間引き」が行われており、ロシアの観測ステーションの「間引き」はその一部にすぎなかったのだ。
ではその他の統計ではどうだろうか?現在、世界の地上気温のデータセットは三つある。ひとつは米国NOAAの下部組織NCDCによる世界の地上気温データセットGHCN2である。二つ目は同じ米国のNASAの一部門であるGISSによる世界地上気温データセットGISTEMP3である。三つめは英国UEAのCRUによるCRUTEM3が三つ目のデータセットである。しかし、これら三つのデータセットの元データはほとんどNCDCで集計された地上ステーションの観測データに依存しており、統計処理の方法がそれぞれで若干異なっているに過ぎないようである。つまり親ガメのNCDCがこけたらみなこけてしまう危うい状態にあるのだ。三つのデータセットともに地表面を緯度経度5°の格子に区切り、地表面を(360÷5)x(180÷5)=2592個の格子にわけてそれぞれの(観測値-平年値)で平年偏差を求めその偏差を全球にわたって平均するという手法を取っているようだ。(HadCRUT3については未確認だが)
近年、GHCN2の地上の観測ステーションが大幅に減少している。1980年前後をピークに1990年代前半にかけて大きく減少し、現在ではピーク時6000の4分の1、1500程度のステーションしか使用されていない。しかも脱落したステーションは「高地」「高緯度」「田舎」といった比較的温暖化をきたしにくいステーションが選択的に除去されているという。前述のロシアに限らず全世界的に都市化の影響を受けやすい地域のステーションが「人為的」に残されていることになる。この処理によって世界平均気温における誤差は+0.2℃に及ぶという指摘もある。
(Peterson,T.C. and Vose,R.S. )
この理由についてNCDCは次のように言い訳をしている。「The reasons why the number of stations in GHCN drop off in recent years are because some of GHCN’s source datasets are retroactive data compilations (e.g., World Weather Records) and other data sources were created or exchanged years ago. Only three data sources are available in near-real time.」「いくつかのデータセットは過去に遡って編纂される。他のものは何年も後になって作られたり交換されたりする。リアルタイムで入ってくるのは三つしかない。」
しかし次の図を見ればあきらかである。すでに10数年が経過しているにもかかわらず全くステーション数は増加の兆しさえない。nytolaは「歩いてデータを取りにいっているのだろう。」と揶揄しているが、けだし名言である。
(D’Aleo,J. and Watts,A.)
地上気温の観測は1979年より衛星を使って行われている。ここで二つの衛星観測データRSSとUAHとGHCNのデータを比べた図がある。GHCN-衛星データの年次推移だが、衛星データは同様の動きをしているのに対してGHCNとの差は近年大きくなり続けている。この結果から言えることは「二つの独立した衛星データが同じように近年cool biasが拡大してきたかGHCNが近年warm biasがひどくなった。」かのどちらかである。結論は読者自ら考えてほしい。
(D’Aleo,J. and Watts,A.)
ではNASAのGISTEMP3はどうであろうか?図の中央を見ればわかるようにやはりGHCN2と同様1980年代後半をピークにステーション数が激減している。ここで注目すべきはステーション数の減少にもかかわらず地表面のカバー率はほとんど低下していないことである。(一番右の図)これはGISTEMP3には独特の「1200kmルール」というのがあって、二つのステーション間の距離が1200kmまでは気温の相関関係が認められるとして空白の格子にはなんと!!1200km以内の隣接するステーションのデータを使って空白を埋めているのだ。
(GISTEMP3)
最近ではこの1200kmルールよって観測ステーションが存在しないはずの北極海が最も温暖化が進行するという奇怪な現象が起こっている。
1200kmといえば南北方向に緯度10°以上離れており、私にはどうもしっくりこない。だれしも同じことを考えるようでこのブログでも「相関があること」と「トレンドが同じこと」は違うと批判されているようだ。当然といえば当然だろう。さらににわかには信じがたいことであるが、D’Aleo & Wattsのレポートには「Curiously, the original colder data was preserved for calculating the base period averages, forcing the current readings to appear anomalously warm.」とあり、脱落した冷涼なステーションのデータは過去の平均値の中で生きており、現在の温暖化を強調するのに一役買っているという。つまり近年の温暖化を強調したい連中にとっては「基準となる平均気温を低く保つことができる。」さらに「都市化の影響を強く受けるステーションを選択的に残すことによってさらに近年の温暖化をより大きく見せることができる。」という二重のメリットが存在することになる。
さらにもうひとつ付け加えれば「平年値」というのは30年間の平均である。現在は1971年から2000年までの平均値が使用されており10年ごとに更新されることになっている。これは来年には1981年から2010年に変更されるはずだ。気象庁ではそうなっているが(後述の図参照)WMOやIPCCは未だに1961年から1990年の平均を使用している。これは「気温低下のみられた1960年代を平年値に入れることで最近の温暖化を目立たせる。」という視覚的な効果がある。Climategateで暴露された電子メールにも2001年のIPCC三次報告のさいに「平年値は1990年のままで行け」とサジェストするものがあったように記憶している。(今回は探しきれず)
2.日本の気象庁の場合
では我が国の気象庁はどうであろうか?我が国の気象庁も世界の平均気温の推移を発表している。
気象庁のHPの「世界の平均気温の平年差の算出方法」というページに以下のように書かれている。「陸域で観測された気温データ:1880~2000年までは,米国海洋大気庁気候データセンター(NCDC)が世界の気候変動の監視に供するために整備したGHCN(Global Historical Climatology Network)データを主に使用し,使用地点数は年により異なりますが,約300~3900地点です。2001年以降については,気象庁に入電した月気候気象通報(CLIMAT報)のデータを使用し,使用地点数は1000~1300です。」
つまり気象庁のデータもつい最近までNCDCに大きく依存していたことになる。また気象庁の場合地上気温のほかに海面水温データを組み込んでいる。「1891年以降整備されている、海面水温ならびに海上気象要素の客観解析データベースCOBE(Centennial in-situ Observation Based Estimates of variability of SST and marine meteorological variables)の中の海面水温解析データ(COBE-SST)で、緯度方向1度、経度方向1度の格子点データになっています。」この世界平均気温データセットには名前がついてないようだが、仮にここではJMATEMPと呼ぶことにする。これの最近のステーション数について問い合わせたところ、最初は「気象庁では、観測データを5度格子に変換したあとの被覆率(全5度格子数のうち、データの存在 する5度格子の割合)を算出しています。それによれば、確かに1980年代後半をピークに被覆率の減少は見られますが、1990年以降も80%程度以上の被覆率を保っており、全球平均気温における質の低下は小さいものと考えています。」というそっけない返事でステーション数の推移を教えてもらえなかった。(笑) さすがにそれではブログネタにはならないので再度質問をして得たのが下の図である。予想通り、JMATEMPのステーション数も他のデータセットと同様に近年大きな減少を認めている。
(図気象庁)
それでも気象庁は「少ないステーション数でも格子数で70%前後、表面積の85%をカバーしており、平年差を用いた解析では、広い範囲で各地点の値はほぼ同様の傾向を示すので、ある地点の平年差の値が周辺の地域の気温の平年差を代表した値とみなすことができる。」と自信満々である。他施設のデータとの比較でも大筋は似通っており近年の温暖化は間違いないと言いたいようである。しかし元データが同じで違う傾向がでればそれこそおかしいだろう。また「2010年2月の世界の月平均気温平年差は+0.33℃(速報値)で、1891年の統計開始以降、7番目に高い値」などという発表には意味があるのかという問いには、「必ず誤差が含まれますので、厳密には、統計的な有意性をもって7位であるとまではいえませんが、その最良の推定値の順位を、気候変化の状況を示す目安として提供している」とのことである。「最も最善の方法で算出を行っているとはいえませんが、現時点でとりうる最良の方法で算出を行っている」とも。「最も最善」とはすごい形容だが、とにかく温暖化をあおりたい本音が痛いほど伝わってくる。(笑) GHCNの場合脱落し比較的冷涼なステーションのデータが過去の平年値に生きており現在の温暖化を強調する要素のひとつになっているとの指摘があることを述べたが、JMATEMPの場合は「観測地点ごとに月平均気温の平年差を作成し、5度格子内に位置するすべての地点の平年差を平均した値を、この5度格子の月平均気温の平年差とします。」とあるので、ステーションが減少すれば残ったステーションだけのデータで平年偏差を計算するのでそれはないようである。(確認済み)問題はNCDCで選択的なステーションの間引きがすでに行われているとすれば、あとでどんなデータ処理をしようと意味がないということだ。GIGOである。
観測ステーションが減少し始めた1980年代後半は現在の二酸化炭素による温暖化問題がクローズアップされIPCCが設立された時期と一致している。この頃から気候変動問題への研究費が膨らんでいったことは容易に想像できる。このような事情が観測ステーションの選択的減少になんらかの関係があると考えるのはうがちすぎだろうか?
(JMATEMP)
ちなみに日本の気象庁もNCDCには毎月データを提供している。気象庁に問い合わせたところ次の53地点を送信しているという。
稚内、旭川、網走、札幌、釧路、根室、寿都、浦河、函館、若松(会津若松)、青森、秋田、盛岡、仙台、輪島、新潟、金沢、長野、前橋、水戸、名古屋、銚子、津、御前崎、東京、大島(伊豆大島)、八丈島、西郷(島根)、松江、鳥取、舞鶴、広島、大阪、潮岬、厳原(対馬)、福岡、大分、長崎、鹿児島、宮崎、福江(長崎)、松山、高松、高知、徳島、名瀬、石垣島、宮古島、那覇、南大東島、父島、南鳥島、(昭和基地)
太字は2009年10月の段階でGHCNに採用されていない8地点だ。気象庁の回答は「盛岡、長野、水戸、津、徳島の5地点がGHCNに収録されていませんでした。」ということだったが、調べてみると上記8地点が脱落している。長野は確かに標高が高いがその他はなぜ採用されていないのか理由はわからない。どなたか気づいたことがあれば教えてほしい。
3.まとめ
だらだらと書いてきたが、一応のまとめとして
1. 気候変動問題がクローズアップされ始めた1980年代後半よりNCDCの地上の観測ステーションは約4分の1に減少した。
2. 脱落したステーションは高緯度、高地、田舎に多くこれらのデータが平年値として生きており現在の温暖化の誇張に一役買っているデータセットもある。
3. 衛星観測データと地上観測データとの解離も近年、拡大を続けている。
4. すべての世界地上気温のデータはNCDCに依存しており、これらがすべて同じ傾向を示しているからといって必ずしもそれが正しいことにはならない。
5. とくに1990年以降のデータは見直しが必要である。
6. 近年「今年の○月は観測史上○○番目に高温だった」という脅迫まがいの発表が各機関からこぞって行われているが、これも根拠は薄弱と考えたほうがよい。
7. 現在の温暖化はステーションの選択的間引きによる人為的温暖化である確率がvery likelyである。(90%以上)(笑)
参考文献&サイト
[14回]