注:この記事をご覧になった方はコメント欄の近藤邦明氏の指摘もあわせてご覧いただくようお願いします。(2007年10月26日)
気象衛星画像には可視画像、赤外画像、水蒸気画像の三種類がある。可視画像は人間の目で見た画像と同じで物体から反射してきた太陽光(可視光)を見ている。よって夜間は画像は見ることができない。
赤外画像は天気予報などで使用されており一般の人にもなじみのある画像である。これは大気によって吸収されない「大気の窓」と呼ばれる波長域の赤外線(ひまわり5号の場合:波長10.5~12.5μm)を測定して、この波長の強度から「相当黒体温度」を推定し画像を得ている。「相当黒体温度とはその波長帯の放射がStefan-Boltzmannの法則に従う黒体放射の一部だと仮定した場合のその黒体の温度のことである。
ここのサイトの説明がわかりやすいので参照していただきたい。↓に赤外画像の例を示す。
上の画像から明らかなように赤外画像で見ることができるのは地表面、海水面、そして雲(雲頂)の三つしかない。言い換えればこの三つの物体は放射を行っており、近似的に黒体とみなすことができるということである。一方で温暖化論者の支持する「放射平衡モデル」のように大気が黒体として近似できるのなら、当然大気からの放射もこの画像で写るはずだ。しかしそんなものはどこにもない。従ってこの画像1枚からでも彼らの理論が間違いであることがわかる。
TheorySurgeryは「再放射の可能性」において放射温度計を例にとり大気の放射は小さく温室効果ガスによる再放射の可能性は極めて低いと主張し、『最も「再放射」を行う可能性がある大気物質を考えてみますと、それはおそらく雲になるのではないかと思います。』と推論している。この画像は彼の推論が核心をついていることを物語っている。
最後に一般にはなじみが薄いが、水蒸気画像というものがある。これは同じ赤外域でも水蒸気による吸収が大きい6.5~7.0μmの波長を使用して対流圏上・中層の水蒸気の分布をみるもので↓に例を示す。
この水蒸気画像の撮影原理は「気象衛星画像の見方と利用」(鈴木和史ほか、気象業務支援センター)には以下のように書いてある。
『水蒸気による吸収が非常に大きい波長帯で観測しているため、観測される放射量は赤外線を放射する物体の温度よりも衛星と物体との間にある水蒸気量によって決まる』
『下層雲あるいは地面を含む下層からの放射は、その上にあるわずかな水蒸気によってすべて吸収されてしまう。対流圏より上空では水蒸気はほとんどないので上層からの放射はそのまま衛星に届く。-中略-。中層で放射されたものは上・中層にある水蒸気量の影響を受け、水蒸気が非常に少なければ衛星に到達する放射は多くなり、画像上では暗く見える。』(太字、色文字=はれほれ)
もしも再放射がおこるのなら下層の放射を吸収した水蒸気からの再放射が衛星に捉えられるはずである。また同様にして中・上層の水蒸気からの再放射も捉えられるはずである。つまり温室効果ガスとして最も強力な水蒸気にも再放射は認められないということである。このことはTheorySurgeryが量子力学的な観点から導いた「温室効果ガスの再放射の可能性は極めて低い」という結論を強く支持するものである。もちろんそれと同時に温暖化論者の支持する温室効果理論を支える「放射平衡モデル」の根底を揺るがすものである。我々はもう一度地球大気の熱の移動について考えなおさなければならない。
この文章で少しは地球温暖化問題に関して気象予報士らしい仕事ができたかなと思っているが、「お前は気象予報士のくせに今までこんなことにも気がつかなかったのか!」と言われれば返す言葉がない・・・・・。
[7回]
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COMMENT
大気が写らない理由?
■正しくは、大気を構成する気体分子は波長10.5~12.5μmの赤外線に対しては吸収・放射を行わないということしか言えないのではないでしょうか?逆に、そのことが大気の窓領域を作り、その大気の窓領域を利用して地表温度や海面温度、雲頂の温度を計測しているのだと考えます。
■ここで言えるのは、槌田が述べている通り、雲は大気の窓領域をも塞いでしまう、ということだと思います。
■次に、「6.5~7.0μmの波長を使用」した場合には水蒸気という気体も撮影可能だということからも、大気(ここでは主に水蒸気)は射出率は低いにしても、赤外線の吸収・放射を行っているわけです。
■この画像で水蒸気が白く見えるということは、下層大気に含まれる水蒸気は6.5~7.0μmの波長の赤外線をほとんど吸収するのに対して、上層大気に含まれる水蒸気は6.5~7.0μmの波長の赤外線をほとんど放射しないということでしょう。これは、上層大気の温度が低く、より長波長側にピークを持つ分布を持つ赤外線を中心に放射しているということだと思います。
■高度6000m付近における宇宙空間への放熱の中心温度は250Kと言われますから、放射の中心波長は20μm程度であり、6.5~7.0μmでは放射はほとんどゼロですから、「白く」写るのだと思います。
Re:大気が写らない理由?
>■少し疑問があります。「ひまわり5号の場合:波長10.5~12.5μm」で写した赤外線映像(おそらく黒いところほど波長10.5~12.5μmの赤外線が強い)で写るのは「地表面、海水面、そして雲(雲頂)の三つしかない」としていますが、それをもって「大気が黒体とみなせず再放射はあまり行わない」とは言えないように思います。
>■正しくは、大気を構成する気体分子は波長10.5~12.5μmの赤外線に対しては吸収・放射を行わないということしか言えないのではないでしょうか?逆に、そのことが大気の窓領域を作り、その大気の窓領域を利用して地表温度や海面温度、雲頂の温度を計測しているのだと考えます。
★赤外画像に関してはおっしゃるとおりです。キルヒホッフの法則でよく吸収する波長ほどよく放射するので窓領域で測定する限り、大気からの放射は捉えられないと考えるべきでした。大気にもキルヒホッフの法則が適応できるというのは下の
江口菜穂、中前久美「第7回大気化学勉強会ノート前篇大気と放射のお話」に
http://www2.nict.go.jp/y/y222/SMILES/MACS/7/note/Radiation1.pdf
『Kirchhoffの法則は熱力学平衡の条件の下でのみ成立するものであり、このとき物体は等温で等方性放射していなければならない。ところが、現実大気には温度勾配があり、全体としてこの条件を満たしているとはいえないため、厳密にはKirchhoffの法則を適用することはできない。しかし、約40km以下の局所的な大気層ではエネルギーの交換は充分に密な空気分子の衝突によって行われており、局所的には等温で等方性放射であると近似できるため、Kirchhoffの法則を適用することができる。これを局所熱力学平衡(local thermodynamic equilibrium:LTE)という。』
とあります。
また大気がどれくらい黒体に近似できるかということで射出率(放射率)を調べてみますと大体0.61という値のようです。他の物体に比べてかなり小さい印象です。参照サイト↓
http://www.jp.horiba.com/analy/it/subete8.htm
訂正記事を書こうと思っていたのがついのびのびになっていました。申し訳ありません。
>■ここで言えるのは、槌田が述べている通り、雲は大気の窓領域をも塞いでしまう、ということだと思います。
★これは雲は大気に比べてかなり射出率が高く、おっしゃるように窓領域の吸収放射を行っていると考えてよいと思います。参照↓のここの吉田ほか
http://221.243.18.148/tenki/pdf/51_05/p083_090.pdf
>■次に、「6.5~7.0μmの波長を使用」した場合には水蒸気という気体も撮影可能だということからも、大気(ここでは主に水蒸気)は射出率は低いにしても、赤外線の吸収・放射を行っているわけです。
★水蒸気画像の場合は直接の水蒸気からの放射が「撮影可能」なのではなく他の物体(地表面や雲)からの放射が吸収されることで識別できるということです。そして再放射が衛星からは認められないということを強調したかったわけです。
>■この画像で水蒸気が白く見えるということは、下層大気に含まれる水蒸気は6.5~7.0μmの波長の赤外線をほとんど吸収するのに対して、
★この部分は異論ありません。私はTheorySurgery氏のいわれる無放射緩和過程によってここからの再放射が認められず、したがって下向き放射による温室効果も非常に小さいということを強調したかったのですが・・・・。
>上層大気に含まれる水蒸気は6.5~7.0μmの波長の赤外線をほとんど放射しないということでしょう。これは、上層大気の温度が低く、より長波長側にピークを持つ分布を持つ赤外線を中心に放射しているということだと思います。
>■高度6000m付近における宇宙空間への放熱の中心温度は250Kと言われますから、放射の中心波長は20μm程度であり、6.5~7.0μmでは放射はほとんどゼロですから、「白く」写るのだと思います。
★この部分に関して前半部分はは事実だと思いますが水蒸気画像との関連はどうでしょうか?どこかで読んだのですが、水蒸気画像で上層の雲が白いのは赤外画像と対比するためと書いてあったような気がします。ほとんどうろ覚えですみません。
★ご指摘ありがとうございました。私もまだ理解が不十分で、余計なことを書くとボロがでることがはっきりしましたのでこれからはあげ足とりに専念します。(笑)
訂正
■250Kの黒体放射のピーク波長は20µmではなく12µm程度ですね。
■正しくはウィーンの変位則から
λ=0.002898/T=0.002898/250=1.1592×10^-5=11.59µmでした。