注:2008年2月20日過ぎ、CO2 Scienceがサイト上で「二酸化炭素温暖化に反論するDVDを発売する」と発表した直後からサイバーテロに襲われダウンしてしまいました。現在は最新号のみ閲覧できますが、過去ログにはアクセスできない状態です。拙ブログからのCO2 Scienceへのリンクは切れたままです。復旧しましたらまたリンクをやり直す予定です。しばらくは御不便をおかけしますが御理解いただきますようお願い致します。(悪魔のささやき管理人、はれほれ)
温室効果の説明図を見ると、高層の温室効果ガス(以下GHG)の層から地表へ向かって矢印が描かれており、あたかもGHGが地表へ向かって放射を行ったり熱を移動させたりするようになっている。しかし、熱力学の第2法則によれば高層低温のGHGからより高温の地表に向かって熱が移動することはあり得ない。また実際に長波放射を吸収したGHGが赤外線を再放射するまでの時間は大気中の赤外不活性分子である窒素や酸素などと衝突するまでの時間より長い。そのため衝突によって失活する確率のほうがはるかに大きくGHGの赤外線再放射は極めておこりにくいことが示されている。このことからGHGの本質的な役割は地球から逃げる熱の一部を吸収して酸素や窒素などの赤外不活性分子に衝突して受け渡し、大気温度を上昇させるところにあると考えられる。そこで温室効果ガスが増加するとどれくらいの長波放射の吸収が増えるかということを考えてみる。この点に関してはBarrettが詳細な検討を行っている。
Table1 Barrett,Jより引用
Table 1は288Kの黒体放射に対するそれぞれのGHGの吸収率を地表面から100mの光路長で見たものである。つまり1気圧の乾燥空気(窒素、酸素、アルゴン)にそれぞれのGHG 1種類だけを混じてその吸収スペクトルの全放射エネルギーに対する割合を測定したものである。一番上の水蒸気は相対湿度45%で測定されている。(15℃の飽和水蒸気圧は約17hPaであるので相対湿度45%=7.65 hPa=約0.755%)水蒸気の場合地球からの長波放射のエネルギーの68.2%を吸収したというのがこの表の意味である。順に産業革命前の濃度285ppmvのCO2単独では17.0%のエネルギーを吸収している。そしてCO2濃度が倍増して570 ppmvになれば吸収されるエネルギーは18.5%に増加する。メタンの吸収エネルギーは1.2%、一酸化二窒素は0.5%となっている。そして下から3行目の「total」にはこれらの値を合計すると全放射エネルギーの86.9%を吸収することになることが示されている。ところが実際にすべてのGHGを同時に混入してみるとCO2濃度285ppmvでは全放射エネルギーの72.9%、570ppmvでは73.4%の吸収にしかなりませんよというのが最後の2行である。これは水蒸気と他のGHG間で吸収スペクトルの重複があるためである。したがってCO2濃度が倍増すれば理論上は1.5%の吸収エネルギーが増加するわけだが、実際は0.5%の吸収増しか認められない。右列の数字は濃度0.755%の水蒸気の吸収エネルギーを1としたときの各GHGによる吸収エネルギーの割合を示している。
またTable 1によれば産業革命前のCO2濃度において高度100mで吸収されるエネルギーは地表放射の72.9%であるから、残りの吸収可能なエネルギーは27.1%である。一方、大気には全く吸収されない「大気の窓」と呼ばれる波長域のエネルギーが存在しこれが22.5%を占めている。吸収可能なエネルギーの残りは
27.1-22.5=4.6(%)
しかない。これがCO2倍増時には4.1%に減少する。ところが、次の100mでも同様に73%程度のエネルギーが吸収されるとすると
0.046x(1-0.73)=0.012
である。したがって地表面からの放射エネルギーのうち吸収可能なエネルギーの99%近くが地上200mですでに吸収されていることになる。
Table2 Barrett,Jより引用
Table2は各GHGの全体の吸収エネルギーに占める寄与度である。水蒸気の場合は前掲のTable1から
68.2÷86.9x100=78.5%(288K、相対湿度45%)
とされている。吸収の重なりを他のGHGの吸収と考えた場合の水蒸気の寄与度に相当するとされているが、厳密には近藤邦明のように
{68.2- (86.9-72.9)} ÷72.9x100=74.3(%)
とすべきであろう。また吸収の重なりを水蒸気によると考えた場合は
68.2÷72.9x100=93.6%(288K、相対湿度45%)
となる。この数値が「温室効果の90%以上は水蒸気である。」の根拠となっていることは言うまでもない。
さてこのCO2倍増による0.5%の吸収エネルギーの増加がいったいどのくらいの気温上昇をもたらすのであろうか? Barrett は論文の後半においてGHGの有無による温度差33K(288K -255K)から概算してCO2倍増時の温度上昇を0.3℃程度としている。これについては原著や下記のTheorySurgeryの考察を参照してほしい。ただ私自身はこの33Kという値には疑問を持っているので少し違った角度からその影響を検証してみる。
ステファンボルツマンの法則から288Kの黒体放射は
5.67x10-8x2884=390(W/m2)
したがってCO2倍増時に温室効果によって余分に吸収されるエネルギーは
390x0.005=1.95(W/m2)
これは1m2あたり1秒につき1.95Jのエネルギーが吸収されることを意味している。1日当たりに換算すれば
1.95x60x60x24=168480(J/m2)=0.17(MJ /m2)
1年あたりでは
0.17x365=62.1(MJ /m2)
となる。これを太陽から受け取るエネルギーと比較する意味で全天日射量と比べてみる。たとえば1日あたりのデータは下記の「ドイツ太陽光エコファンド」のサイトに詳しい。この表で福岡を例にとると最大値は2000年の14.2 MJ /m2で最小値は1993年の11.5 MJ /m2である。年々の1日あたりの平均の日射量でもこれだけ変動があるわけで、はたして0.17 MJ /m2の放射強制力の上乗せがどれくらいの意味を持つのであろうか?確かに1993年は寒冷な年であったが24年間の平均値と比べて1.66 MJ /m2もの日射量の減少があったわけである。また下の表は日立市天気相談所のサイトから転載した1982年から2007年にわたる日立市の全天日射量の年間値である。
日立市年間全天日射量(日立市天気相談所HPより)
年
|
年間全天
日射量(MJ/m2)
|
1982 |
4832.8
|
1983 |
4667.1
|
1984 |
4819.4
|
1985 |
4489
|
1986 |
4508.3
|
1987 |
4483.6
|
1988 |
4576.7
|
1989 |
4560.6
|
1990 |
4401.7
|
1991 |
4097.9
|
1992 |
4232.9
|
1993 |
3949
|
1994 |
4501.5
|
1995 |
4048.2
|
1996 |
4185.5
|
1997 |
3912.5
|
1998 |
4378.9
|
1999 |
5005.6
|
2000 |
5029.1
|
2001 |
5071
|
2002 |
5061.7
|
2003 |
4741
|
2004 |
5223.2
|
2005 |
5147.4
|
2006 |
4592.3
|
2007 |
5164.2
|
これを見ると4000 MJ /m2以下の少ない年から5000MJ /m2を越える年まであり変動幅は1300 MJ /m2を越えている。ここにCO2倍増時の温室効果上乗せ分 年62.1 MJ /m2が加わったとして果たして有意な影響があるとはとても思えない。ここのサイトは年平均気温や年最高気温の経年グラフもあり、これらと全天日射量の相関などを調べてみるのも面白いかもしれない。といっても自分でやる気はさらさらないが。
以上より「CO2倍増時の温室効果の増加分より全天日射量の自然変動の方がはるかに大きくCO2倍増によって有意な気温変化が起こるという確証は認められない。」というのが今回の一応の結論である。この結論に対して「温室効果の増加分はすべて大気を暖めるが、全天日射量の場合は地表面への入射に過ぎない。」など温暖化論者から反論があるかもしれない。しかし平均的な地球のアルベドを30%としても太陽放射の自然変動に比べて温室効果の増加分はけた違いに小さい。もしも温暖化論者のいうように二酸化炭素濃度が倍増したときに壊滅的な影響が地球環境に起こるのなら、全天日射量が100 MJ /m2増加しただけでも同様の変化が起こるのではないか。それならこの20年あまりで何回も地球は大打撃を受けていなければならないことになる。
本稿の内容の一部は、日本気象予報士会西部支部2007年11月例会において「『温室効果』にみる嘘と誤魔化しと間違い」のなかの一項目として述べたものです。
参考論文
中田宗隆:地球温暖化現象に学ぶ物理化学の基礎(3)現代化学No.444(2008)
参考サイト
[1回]
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COMMENT
CO2濃度上昇の影響
どうなんでしょうか。
とんでもない大発見??しました。
ブログに書きました。
TBさせてもらいました。
水の不思議
地球の熱収支を語る場合、水の冷却作用が重要だと思います。
水の冷却作用なければ、地表の平均温度は15度より高いはずです。
地球圏外に熱を逃がす働きは、水蒸気と引力の関係が重要です。
低温とエントロピー関係とか・・・。
★
>「68.2÷72.9x100=93.6%(288K、相対湿度45%)となる。この数値が「温室効果の90%以上は水蒸気である。」の根拠となっていることは言うまでもない。」
相対湿度が重要なのですね。
内陸砂漠のような乾燥地帯では、数値は変わるでしょう。
槌田敦の『熱学外論』、『CO2温暖化説は間違っている』などなどに書いてある話ですが・・。
Re:水の不思議
>地球の熱収支を語る場合、水の冷却作用が重要だと思います。
>水の冷却作用なければ、地表の平均温度は15度より高いはずです。
★地表面から帰化熱を奪うという意味では確かにそうですが、大先生方の気候モデルではそうはなっていないようです。二酸化炭素倍増時の温度上昇の大きな部分は水蒸気の増加による温室効果増大によるものですから。(笑)
>地球圏外に熱を逃がす働きは、水蒸気と引力の関係が重要です。
>低温とエントロピー関係とか・・・。
★すみません。ここはよく理解できません。
>相対湿度が重要なのですね。
>内陸砂漠のような乾燥地帯では、数値は変わるでしょう。
★水蒸気がなくなれば当然水蒸気の温室効果はなくなりますが、ある程度以上増えても温室効果は頭打ちになるのではと私は考えています。いわゆる「飽和」という意味ですが、それがどれくらいの濃度かはわかりません。この問題考えれば考えるほど時間のロスが大きいように感じる今日この頃です。(笑)
水の不思議 その2
「水の特性」は、槌田敦の理論の中で、個人的に重要だと思うにもかかわらず、世間で軽視されている気がするのです。
だから、はれほれさんの個人的な見解を聞きたくて、書き込みをしました。
本はお持ちと思いますので、参考までに該当箇所を引用します。
『CO2温暖化説は間違っている』槌田敦・著から引用
「地球エンジンに入射するのは高温の太陽光で、これが諸活動の原動力である。
そしてその結果の同量の熱を地球は大気上空から宇宙へ低温の熱線(遠赤外線)として廃棄し、諸活動で発生した余分の熱エントロピーを処分している。
高温の熱よりも低温の熱の方が熱エントロピーは大きいので、その差だけ余分のエントロピーを宇宙に捨てることができる。
この熱を地表から、大気上空へ運んでいるのが、大気の循環と水の循環である。
大気循環と水循環は、平均15℃の地表で、大気への伝熱および水の蒸発という形で熱を得て、これを平均高度5900メートルまで運び、マイナス23℃の温度で宇宙に放熱している。
放熱により温度が下がり重くなった大気はふたたび地表に降りてきて、また同じことをする。」
65〜66ページ
「水に蒸発の性質がなく、単なる温暖化ガスとするとき、地表の平均温度は31℃となる。
これは大気への熱伝導(空冷)で一部の熱が大気に移ったとすると、地表の温度は28℃となる。
しかし、ここに地表の水の蒸発(水冷)があると、地表の温度は15℃となるのである。
つまり、この水冷こそが、地表の温度を最終的に決める因子であって、一挙に13℃も温度を引き下げるのである。」
70ページ
「熱帯や温帯では、大気中の水蒸気の量が圧倒的に多く、また次章で述べるが、湿度が高くなると大気に存在する微粒子が核になって水蒸気が多量結合して霧状となり、水蒸気だけでは吸収できない波長領域の8〜12ミクロンのいわゆる「大気の窓」が塞がれる。
したがって、CO2が多少増えたところでCO2による影響はほとんどないことになる。
つまり、CO2温暖化によってCO2の効果があるとすれば、それは水蒸気の少ない温帯の冬と寒帯が暖かくなるだけである。」
77ページ
Re:水の不思議 その2
>「水の特性」は、槌田敦の理論の中で、個人的に重要だと思うにもかかわらず、世間で軽視されている気がするのです。
>『CO2温暖化説は間違っている』槌田敦・著から引用
>「地球エンジンに入射するのは高温の太陽光で、これが諸活動の原動力である。
★そのとおりですね。
>そしてその結果の同量の熱を地球は大気上空から宇宙へ低温の熱線(遠赤外線)として廃棄し、諸活動で発生した余分の熱エントロピーを処分している。
>高温の熱よりも低温の熱の方が熱エントロピーは大きいので、その差だけ余分のエントロピーを宇宙に捨てることができる。
★ここはよく理解できていません。たぶん「太陽放射は短波放射で熱エントロピーが小さく、生物がそのエネルギーを利用することによって、しだいに熱エントロピーの大きい長波放射として宇宙へ捨てられる。」という意味だと思いますが自信はありません。
>この熱を地表から、大気上空へ運んでいるのが、大気の循環と水の循環である。
★まさにその通りだと思います。温暖化派は定量的には「放射」の方が大きなウエイトを占めていると考えているようです。ここが論点のひとつでしょう。
>大気循環と水循環は、平均15℃の地表で、大気への伝熱および水の蒸発という形で熱を得て、これを平均高度5900メートルまで運び、マイナス23℃の温度で宇宙に放熱している。
>放熱により温度が下がり重くなった大気はふたたび地表に降りてきて、また同じことをする。」
★猫田さんはもっと高層の中間圏あたりの-23℃を考えておられるようですが、私も高度については水の循環や大気成分を考慮して対流圏でいいのではないかと思います。ただ、大気の高度分布がなぜ現在のようになっているか(たとえば5900mの高度の気温が-23℃)を説明するのに実測値を使用するのは私としては納得しにくいです。(笑)言葉で表現し難いのですがおわかりいただけますでしょうか?
>「水に蒸発の性質がなく、単なる温暖化ガスとするとき、地表の平均温度は31℃となる。
>これは大気への熱伝導(空冷)で一部の熱が大気に移ったとすると、地表の温度は28℃となる。
★槌田氏は5900m=-23℃から乾燥断熱減率を用いて1気圧の地表気温を求めていますが、31℃、28℃の根拠も上のような理由でどうなのかな?と思います。単に私の理解力不足かもしれませんが。(笑)
>しかし、ここに地表の水の蒸発(水冷)があると、地表の温度は15℃となるのである。
>つまり、この水冷こそが、地表の温度を最終的に決める因子であって、一挙に13℃も温度を引き下げるのである。」
★ここも「現実の水冷がある状態では地表の温度は15℃といわれている。」ということだと思いますが、定量的な考察については触れられていないため、もろ手をあげて賛成とはいきません。
>
>「熱帯や温帯では、大気中の水蒸気の量が圧倒的に多く、また次章で述べるが、湿度が高くなると大気に存在する微粒子が核になって水蒸気が多量結合して霧状となり、水蒸気だけでは吸収できない波長領域の8〜12ミクロンのいわゆる「大気の窓」が塞がれる。
★ここは雲の形成を指しており、赤外線を吸収する性質についてはその通りだと思います。ただアルベドの問題が残っています。
>したがって、CO2が多少増えたところでCO2による影響はほとんどないことになる。
>つまり、CO2温暖化によってCO2の効果があるとすれば、それは水蒸気の少ない温帯の冬と寒帯が暖かくなるだけである。」
★ここは、吸収波長の重なりについて言及すればそう言えると思うのですが、文脈からはどうなのかわかりません。
結局、水冷、空冷の効果を定量的に扱おうとするとあの熱収支図で議論するしかなく、地表からの放射があれだけ大きければどうしようもないのではないでしょうか?たとえばおおくぼさんのところの2月27日のところに槌田氏の著作の後半部から表が引用されていますが、あの表では地表が失う熱量143に対して蒸発はわずかに24です。そんなに大きな効果とは思えませんよね。ただ、上の31℃、15℃が正しいとすると地表面からの放射は常に存在していますので温度低下分を比例配分すると
(31-15)x24/(24+6)=12.8
となり、水冷13℃にぴったりですが・・・・・。