最近、太陽黒点の出現が少なくあちこちで太陽活動の異常を指摘する声があがっている。私自身もそう考えている者のひとりだが、我々はMaunder Minimumのような太陽活動の停滞期の入り口に立っているのかもしれない。
太陽黒点はspotとporeの2つに分類される。中心部にはumbra(アンブラ)と呼ばれる暗い部分があり、その周囲にやや明るいpenumbra(ピナンブラ)が存在する。磁場はumbraでは表面に対して垂直な方向を示しており、penumbraではほとんどの場合表面に平行である。この二つからなる黒点を「spot」と呼んでいる。これに対してpenumbraを伴わない小さなdot状のumbra のみのものをporeと呼んでいる。
Penn&Livingstonは2006年に大変興味深い論文を発表している。彼らは1998年から2005年まで900を越えるspotの中心部のumbraを赤外線(IR)で観察した。
Penn, M.J. and Livingston, W. Temporal changes in sunspot umbral magnetic fields and temperatures. Astrophysical Journal 649: L45-L48 (2006)より引用
図は代表的な結果である。実線が1998年9月18日、点線が2005年12月27日のものである。1998年9月18日の観測では波長1564.8 nmのFe Ⅰの吸収線はZeeman splittingを起こしている。この間隔から磁場の強さが2688 Gと推定されている。それに比して2005年12月27日の観測ではZeeman splittingの間隔は狭くなっており、時間とともに磁場が弱まっていることがわかる。(つまりこのsplittingの程度からumbraの磁場強度が推定できるということである)これを1年ごとにまとめたのがリンク先の論文のFig.2である。彼らによればumbraの磁場は1年に52 Gずつ減弱しているとのことである。
Livingston, W. and Penn, M.J. Are Sunspots Different During This Solar Minimum? EOS,Transactions, American Geophysical Union 90: 257-258 (2009)より引用
次に1998年の観測ではOH分子による強い吸収線が波長1565.2 nmと1565.4 nmに見られるが、2005年の観測では弱くなっている。これは温度が高くなるとOH分子は分解される傾向があり、6640 K以上の温度ではOH分子による吸収線は認めなくなる。(つまりOH分子の吸収線の深さからumbraの温度が推定できるということである)このデータを年ごとにまとめたのがリンク先の論文のFig.4である。この8年間の観察期間に吸収線の深さは平均して50%も浅くなっている。
さらに彼らはumbraの明るさをすぐ近くの平穏な光球と比較して明るさの比を観察している。この結果、1998年には0.60倍しかなかった明るさが2005年には0.75倍まで明るくなっておりumbraは年とともに明るくなっていることがわかった。1年ごとの平均についてグラフにしたのが、論文のFig.3である。この明るさを黒体に換算すると5137 Kから5719 Kにまでumbraの温度が上昇したことになる。これはOHの吸収線が浅くなったこととも一致している。
まとめるとこの8年間で黒点の最暗部であるumbraの磁場は低下し温度は高くなりかつ明るくなっている。これは11年の黒点周期とは無関係に継続している。さらに彼らの観測によるとumbraの磁場の強さは1500 Gが最低値であるという。1500 G以下の磁場では「黒点」として認められない可能性を指摘し、彼らは最後に次のように論文を結んでいる。
「If 1500 G represents a true minimum for spot magnetic fields and the field strengths continue to decrease at the rate of 52 G yr_1, then the number of sunspots in the next solar cycle (cycle 24) would be reduced by roughly half, and there would be very few sunspots visible on the disk during cycle 25.」
「もしも、1500 Gがspotの真の最低値を代表しており磁場強度が52 G/年の割合で低下し続けるとするならば、次の黒点周期(周期24)には黒点数はおおよそ半分に減少するだろう。そして周期25中にはほとんど黒点が見られなくなるだろう。」(ブログ主の一応の訳)
あれから3年あまり、今年(2009年)EOS誌の7月28日号に彼らによる続報が掲載されている。ここで彼らは現サイクルで見られる黒点は小さなporeがほとんどであり、観測結果は数年前に彼らが論文で予測した範囲内に留まっておりこのまま単純に直線を外挿すると2015年には磁場の強さが1500 Gまで低下し、黒点が消滅する可能性を指摘している。(図の直線を1500 Gまで延長!)つまり、世間では「異常」と騒がれている現在の太陽活動の低下も実は彼らの観測結果からは想定の範囲内であるということである。
このままの傾向が続けばあと数年で太陽から黒点が消えてしまう可能性が高い。その時地球の気候はどう変化するのだろうか? 1645年から1715年の有名なMaunder Minimumは小氷期のなかでももっとも寒冷な時期として知られている。もしかしたらそのような寒冷化が起こり、世界中で食物生産などに大きな影響がでるかもしれない。現在知られている太陽活動停滞期はすべてレトロスペクティブに発見されたもので、今回は我々があらかじめ予測できた初めての例になるかもしれない。現在の人類は太陽を詳細に観測する技術を保持しており、貴重な観測資料を提供するまたとない機会になるだろう。そういう意味では彼らの予測が当たることを半ば期待する面もある。それでも温暖化論者は寒さに凍えながら「これは一時的な自然の揺らぎで長期的には温暖化の傾向は変わりない。温暖化対策を続けなければならない。」と叫び続けるだろうが(実際にPDOに関してはそのようなad hocな言い訳をしている)、もはやまともな市民はだれも相手にしなくなるだろう。(笑)私は来るべくPenn&Livingston Minimum(こう名づけるべき)をけっこう楽しみにしている。なんとかそれまで長生きをしたいものだが・・・・・・。
(2009年9月1日一部修正)
参考サイト
参考論文
COMMENT
いつも楽しみにしてます
Re:いつも楽しみにしてます
>「暁新世」(?)の続きも楽しみにしています。
★PETMに興味をもっていただきありがとうございます。本当は私などではなく第一線で研究されている方が一般向けの書物を出していただけるといいのですが、お忙しいのでしょう。そうもいかないようです。
>しかし、本当はウソであっても、それが社会の潮流であるなら、利用して一儲け、くらいたくましいことを出来るのが勝ち組かもしれませんね。
★確かにおっしゃる通りですね。ハイブリッドカーの普及を見込んで電池メーカーの株を買うとか、太陽光発電のメーカーを買っておくとかですね。私は一生勝ち組にはなれそうもありません。(笑)