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悪魔のささやき

気象予報士の視点から科学的に捉えた地球温暖化問題の真相を追究。 地球温暖化を信じて疑わないあなたの耳元に聞こえる悪魔のささやき。それでもあなたは温暖化信者でいられるか?温暖化対策は税金の無駄遣い。即刻中止を!!! Stop"Stop the global warming."!!

   

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暁新世・始新世温度極大期;5.ミランコビッチサイクルと気候変化

    LourensはWalvis Ridgeの堆積コアから第1の温暖化イベントPETMと第2の温暖化イベントETM2の時間間隔が約200万年であることをつきとめ、「堆積物のmagnetic susceptibility(磁化率)などの検討により両者ともに225万年の離心率周期の長期間に及んだ最小期の直後に起こった40.5万年と10万年の周期の最大期に一致して起こっていることを示している。」としてミランコビッチサイクルと地球の気候変化の関連について言及している。(暁新世・始新世温度極大期;3.繰り返す温暖化イベント参照)少し詳しく解説すると離心率には独立して変化する長周期約40.5万年と短周期約10万年がある。したがって二つの周期の最小公倍数、225万年に一度極端に離心率が大きくなり、地球の軌道は一番扁平なだ円となる。太陽はだ円の中心ではなく二つの焦点のひとつにあるので近日点と遠日点での太陽-地球間の距離の差が大きくなり、近日点では太陽から受ける日射が大きくなる。(距離の2乗に反比例)さらにWesterholdは「(温暖化イベントは)10万年と40.5万年周期の離心率周期によって調節された歳差運動の周期によって支配されている。PETMもETM2も10万年周期の最大離心率の時期に関連して起こっている。両者ともに40.5万年周期の最大離心率期の前後4分の1の時期に起こっておりPETMは最大離心率より遅れ、ETM2は先立って起こっている。」と述べている。これは短周期の10万年周期と長周期の40.5万年では短周期の方が最大離心率から数万年の違いで大きくずれてしまう。たとえば5万年のずれで短周期では離心率はかなり小さくなるが、長周期においてはその程度のずれでは離心率は最大値とあまり変わらないということである。したがって「10万年周期の最大離心率で40.5万年の最大離心率付近」というのはかなり離心率が大きな時期と考えられる。また「(40.5万年周期の最大離心率期より」PETMは最大離心率より4分の1周期遅れ、ETM2は先立って起こっている。」ということで最大離心率周期225万年より前後で約10万年ずつ二つの温暖化イベントの間隔は短いことになる。それが「約200万年の間隔」という意味だ。その前後の差を決めるのがおそらく歳差運動であろうと推定される。つまり離心率が大きな時期の近日点で北半球高緯度に大きな日射が入る地軸の傾きの場合に温暖化イベントが起こりやすいと考えられているからだ。それがSluijsのいう「ETM2は歳差運動と密接な関連がある」ということである。5000万年前のミランコビッチサイクルの推定誤差は2万年程度とされており、約2万年の歳差運動周期はほとんど誤差に含まれ計算による特定は困難であるが、X-ray fluorescence scanning(XRF)という方法が歳差運動を推定する手掛かりとなっている。
 ここで直近100万年の氷期間氷期サイクルに目を移すと、2007年のKawamuraらの有名な論文がある。氷床にトラップされた大気のうち酸素分子が窒素分子に比べて日射によって散逸しやすいというBenderによる指摘を利用してO2/N2比が局所の日射のマーカーとなりうることを示し、Vostok基地とドームふじの氷床コア分析結果とミランコビッチサイクルの関係を過去36万年にわたって精度よく再構築した。その結果軌道スケールでの南極の気候変化は北半球の日射に数千年遅れ、直近4回のterminationでは南極の気温と大気中二酸化炭素の増加は北半球の夏季日射の増加時期に起こっていることを示している。つまりミランコビッチサイクルによる北半球の温暖化が氷期の終わりとCO2濃度の上昇を引き起こしたことになる。(CO2が上昇して氷期を終わらせたわけではない!!)この論文はIPCC4次報告にぎりぎり間に合うタイミングでpublishされており注1、このことはIPCCもしぶしぶ(?)認めている。たとえば気象庁訳
 またobliquity(地軸の傾き)の重要性についても新しい知見が出ている。Obliquityは4.1万年周期で22.1°から24.5°まで変化している。現在の傾きは23.5°で今後これは小さくなる方向へ変化している。従来はobliquityが大きくなると季節により極端な気候になる(夏暑く、冬寒い)といわれるだけであまり重視されていなかったが、Drysdaleらは最終氷期から2番目の氷期のtermination(terminationⅡ;141,000 ± 2500年前)の開始にこのobliquityが重要な働きをしていると主張している。彼らは歳差運動によって北半球高緯度(65°N)の夏季日射が大きくなるよりも早く氷床の融解が始まっており、これはobliquityの変化によるものであるとしている。さらに最終氷期のtermination(terminationⅠ)もterminationⅡと3つのobliquity周期を隔てた同一のフェイズで始まっていると指摘している。すなわち両者は周期41,000 x 3=123,000年の間隔で起こっている。リンク先のアブストラクトにはどういうフェイズで起こったかについては触れられていないが、ウィキペディアのグラフを見ると両者とも地軸の傾きが極小値から増大していく時期に一致している。やはりこれも北半球高緯度の夏季日射の増加につながる軌道変化である。
 なぜ北半球高緯度の日射が重視されるのであろうか?氷期間氷期サイクルの場合はアイス・アルベド効果を考えればそれなりに納得できるのだが、PETMにおいてはSluijsが再三述べているようにPETM前の北極海のsea surface temperature(SST)は17℃前後でありアイスフリーであったと考えられている。とてもそのような正のフィードバックが起こる状況ではなかったはずだ。ただPETM時にも温度上昇に伴って海水準の上昇は認められており、高山などには少量の氷床が存在した可能性が高い。これもPETMの謎のひとつである。さらにSluijsによると、このような高緯度と低緯度のSSTの差が小さい海洋環境というのはたとえ当時の海陸分布をインプットしたとしても現在の気候モデルでは全く再現できないということである。気候モデルがいかに現在の状態にadjustされた不完全なものかということを物語るひとつの証拠である。自然現象を物理法則に従ってきちんと再現しているのならPETM時代の地球を再現できるはずだ。できないということはそれ自体が欠陥品であるということである。
  昨年10月カナダで行われた2008 Gussow-Nuna Geoscience ConferenceにおいてSluijsがゲストスピーカーとしてしゃべっている。私は残念ながら参加できなかったのだが、このサイトから彼の講演にアクセスできる。世界的な研究者の生の声に触れることができる貴重な機会であるので興味のある方はぜひ聞いてみてほしい。
  現在でもミランコビッチサイクルの条件が揃えばPETMのような温暖化イベントが起こりうるのだろうか?あるいは、当時は特別な条件だったから起こりえたのか?それならその条件が揃えば他の時代にもPETM-likeイベントは存在したのだろうか?こうして疑問はどんどん大きくなっていく・・・・・・・。(続く、予定)

注1:この論文はIPCCの四次報告には間に合っていないようです。失礼しました。(2009年10月17日)

参考論文
 
 
 
 
 
 
Bender,M.L.Orbital tuning chronology for the Vostok climate record supported by trapped gas composition. Earth and Planetary Science Letters.202:pp275-289(2002)
 
Drysdale, R. N. et al. Evidence for Obliquity Forcing of Glacial Termination II.Science  325. pp. 1527 – 1531(2009)
 
 
 
参考サイト
 
IPCC第四次報告気象庁訳第6章古気候
 
ウィキペディア:完新世の気候最温暖期
 
 

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イソプレンとエアロゾル

  イソプレンやBVOC(biogenic volatile organic compound)がエアロゾル生成に関連していることは拙ブログの「イソプレンのまとめ」でも述べたが、最近イソプレンに関するいろいろな意味で興味深い論文が発表されたので触れておく。
 
 まず今年(2009年)8月のScienceのPaulotらの論文から。彼らは「NO(一酸化窒素)の少ないpristineな状態の大気中では排出されたイソプレンは速やかにOH基によって酸化されて最初にhydroxyhydroperoxidesに変化する。これらはさらにOH基によって酸化されるとdihydroxyepoxidesを生成するとともに効果的にOH基を再生する。こうして全球で100Tg of Carbon(0.1GtC)ものepoxidesの大気への流れが推定されている。これらのepoxidesは高度の水溶性を示しガス相のイソプレンの分解と観察されている有機エアロゾルの形成を結びつけるミッシングリンクとなるであろう。」と述べている。
 ちょっとわかりづらいので、この論文の背景について解説。佐藤によるとまず基礎知識として気候に大きな影響を与えると考えられている粒径1μm以下のエアロゾルの中で有機物エアロゾルは重量%で18~70%を占めている。さらにこのうちの64~95%が酸素を含む有機物が占めている。これらの含酸素有機物はVOC(非生物由来のものも存在するので単にVOCと呼ばれる)揮発性有機物の光化学反応で生じる二次有機エアロゾル(Secondary organic aerosol:SOA)と考えられている。この研究の初期段階の1980年代にはSOAを発生するVOCで重要なものは植物由来ではイソプレン誘導体であるモノテルペンなどとされ、イソプレンからはSOAはほとんど生成されないと考えられていた。しかし2002年のJangらの報告をはじめとしてイソプレンからもSOAが生じるのではないかという証拠が相次ぎ、現在ではイソプレンのSOA生成への寄与が見直されている。このあたりの有機エアロゾル分野からの研究・発展の概要は河村の論文にまとめられている。これによると量的に最も多く存在する低分子カルボン酸(蟻酸、酢酸)やジカルボン酸(シュウ酸)などの検出が初期には困難であったことが、イソプレン軽視の一因となったようである。これらのSOAは太陽光の散乱・吸収を行い放射強制力に影響を及ぼすだけでなくその親水性の高さから雲を作る時の凝結核として雲の形成にも関与するため気候へ重大な影響を与えると考えられている。エアロゾル分野での研究としては上記の佐藤および河村の二つの論文はよくまとまっており超お勧めの一品である。内容はもちろんのこと何といっても「日本語」で書かれているところが素晴らしい。(笑)最初にもどってPaulotらの論文はNOのない条件下(人里離れた森林など)でイソプレンからSOAの前駆物質と考えられているepoxidesが生成されているという確かな証拠を示したものと言えるであろう。
 次に9月のNature からKiendler-Scharrらの論文。こちらはいろんな意味で興味深い。(笑)拙ブログでも述べたように、現在の二酸化炭素温暖化説によるとCO2↑→温暖化。ここから一次生産の増加→イソプレン排出増→大気中酸化物質↓→メタン寿命延長、そしてさらなる温暖化というのが温暖化論者や気候モデルの筋書きである。このようなポジティブフィードバックは温暖化論者が最も喜ぶシナリオだが、最初のCO2↑でイソプレン排出が抑制されるという「事実」をもって間違いであると切って捨てられた。(はずだった・・・・)しかしこの論文でKiendler-Scharrらはイソプレン排出増による新たな不安?材料を提示している。従来はイソプレン排出の増加による凝結核の増加によって雲ができやすくなるというネガティブフィードバックにより-0.2~0.9W/m2の負の放射強制力が起こると考えられていた。Kiendler-Scharrらはプラントチャンバーによる実験で、イソプレンが増加するとOH基を多量に消費することによってSOAの生成が低下する。つまり負のフィードバックを弱める可能性があるとしている。このひとつの証拠として夏にモノテルペンの排出は最高になるが、凝結核の形成は春秋の方が多い。これは夏季にイソプレンの排出量が増加するためではないかと指摘している。この論文はここまでの主張で私の感想としてはイソプレンから形成されるSOAがこの系では測定できているのか?というところがよく理解できなかったくらいで別にどうということもない。ところがこの号のNews & ViewsのZiemannの記事を見て驚いた、というかやっぱりと思った。Ziemannによると凝結核が多いと小さな水滴がたくさんできるため雲が長寿命となりより多くの日光を反射するが、凝結核が少ないと結果として正のフィードバックとして働くと主張している。温暖化→イソプレン↑→凝結核↓→雲↓→さらなる温暖化という温暖化論者が泣いて喜ぶシナリオが2ページにわたって書かれている。どうやらこの人はCO2が上昇するとイソプレンの排出が抑制されることを知らないのではないかと思ったら最後の最後にArneth, A.らの論文を引用して「Consideration must be given not only to chemical-reaction and nucleation mechanisms, but also to issues such as the potential suppression of terpene emissions by elevated carbon dioxide concentrations,(以下略)」
と書かれている。記事の大部分を費やしたポジティブフィードバックによる得意の「脅し」もイソプレンがCO2に抑制されるという事実ひとつで全く無意味な議論になってしまうのだが・・・・。同様のデータはたくさんあるのだが、どうしても都合の悪いデータは認めたくないようである。(笑)
 「Nature」といえばこの世界では超一流の雑誌という評価を受けているようである。数年前に京都大学の学生に聞いた話。大学での講義で「Natureは商業雑誌だからだめだ。」と言われたそうである。さらに「信頼できるのは地味な学会誌である。」とも。暇を見ては図書館に「Nature」を閲覧に行く私を見かねての忠告だったようだが、当時の私には意味がよく理解できなかった。「学会にも所属していない田舎の人間にはNatureくらいしか情報源がないんよ。」と答えたのだが、この10年あまり「地球温暖化問題」をwatchしてきてはっきりわかった。この温暖化問題に限れば(他のテーマはスルーなのでわからないが)「京大の先生は全く正しい」ということである。温暖化をあおる、あるいは大変だという記事はNatureには載っても水を差すような記事、たとえば「永久凍土は溶けてない」などという論文は学会誌にしか掲載されないようだ。そういう意味ではNatureは私の感覚ではスポーツ新聞か週刊誌といった位置づけになる。(笑)このことはNature系の雑誌Nature Geoscienceにも当てはまるように思う。海外では健全な学会誌がまだ存在するようだが我が国の現状はどうであろうか?今年初めに温暖化問題のディベイトを企画したエネルギー資源学会のような組織もあるが、はたして「健全」と言える学会はどれくらいあるのだろうか?また日本気象学会はこの問題になんと答えるのだろうか?
                             2009年10月9日一部修正

参考サイト&論文
 
悪魔のささやき:イソプレンのまとめ 
 
 
佐藤圭. 二次粒子の生成:イソプレン酸化に関する最近の研究. エアロゾル研究23.pp172-180(2008)
 
 
 
 
Kiendler-Scharr,A. et al. New particle formation in forests inhibited by isoprene emissions.Nature 461.pp381-384(2009)
 
 
悪魔のささやき:気候モデルとイソプレン
 
Ziemann,P.J. Atmospheric chemistry: Thwarting the seeds of clouds. Nature 461.pp353-354(2009)
 
 

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暁新世・始新世温度極大期;4.CIEに先行する温暖化

  PETMに代表される温暖化イベントにおいて「温度上昇が先かCIEが先か」という問いは原因論にもかかわる重要な問題である。深海底の掘削コアでは堆積率が小さく、約17万年におよぶPETMの全期間においても層準の厚さは3m未満である。それゆえオンセット時のCIEや海水温上昇の順序はいくつかの地点では「海水温の上昇がCIEより先行している」と考えられるものの、多くは「ほぼ同時期に起こっている。」としか言いようがないのも事実である。(2.CIEの原因)この問題に決着をつけたのが2007年12月にNature誌に発表されたSluijsらの論文である。彼らは堆積率の比較的大きな大陸沿岸部のNew Jersey Shelf(古緯度40N)の2か所(Bass River と Wilson Lake)の掘削コアから分解能のよいデータを提示している。
Sluijs2007Nature.jpg
 図は
Sluijs,A . et al. Environmental precursors to rapid light carbon injection at the Palaeocene/Eocene boundary.Nature 450:pp.1218-1222(2007)より


  図から明らかなように、まず亜熱帯性渦鞭毛藻Apectodiniumのシスト(Dinocyst)の大量出現(アクメ)注1)がCIEより4000~5000年早くおこり、その後でTEX86注2)による海表面温の上昇がCIEより3000年ほど先んじて起こり最後にCIEが起こっている。このデータを見る限りCIEはPETMの原因ではなく結果であると結論せざるを得ないだろう。(温暖化論者は未練がましいけどね!)このデータから何らかの環境変化が起こったことがPETMの端緒と考えられる。それから海表面温の上昇が起こり最後にCIEつまり12Cリッチな炭素の注入が起こっている。Sluijsらは海表面温の上昇からCIEまでの2000~3000年のタイムラグは海表面温の上昇が海洋の深層水温の上昇、さらに海底堆積物を溶かすまでの期間として矛盾しないとして1995年のDickensらの見解を支持している。CIEはPETMの原因ではなく結果である。そして、最初の温暖化の原因は今のところ不明と結論している。
 図を見るとCIE以後もTEX86による海水温は二地点ともに一定期間上昇を続けている。これはCIEによる温度上昇の「上乗せ」ともとれるが、PETMを惹起した初期の温度上昇の原因が継続したためと考える方が妥当であろう。論文中にはこの点に関する記載はないようだが、Sluijsは彼のサイトのPETMに関する記述「General Introduction and Synopsys」の中で次のように述べている。
「We show that the onset of the global acme of the dinoflagellate Apectodinium and subsequent surfaceocean warming as recorded by TEX86 preceded the CIE by ~5 kyr and ~3 kyr, respectively. Considering that no evidence of any additional environmental change at the CIE is apparent from our records, the input of 12C-enriched carbon may not have caused significant environmental perturbations.」
「我々は渦鞭毛藻ApectodiniumのDinocystの世界的なアクメがCIEより5000年先立っており、続くTEX86によって記録された海表面の温度上昇がCIEより3000年早いことを示している。CIEの時点では何ら付加的な環境変化の証拠が我々の記録からは明らかでないことを考慮すると、12Cリッチな炭素の流入は何ら重大な環境擾乱を惹起しなかったのかもしれない。」(ブログ主の一応の訳)
 
多くの研究者が「炭素流入=温暖化」というロジックから抜け出せない中、自身の研究に絶対の自信を持ち微塵の先入観や偏見も持ち合わせていないコメントである。さすがはこの分野で若手No.1と目される研究者である。これとは対照的に先入観と偏見に満ちた論文の例をみてみよう。たとえばNisbetらはSluijsらの上記論文を受けて、PETMにおける初期のCIE以前の温暖化について「安定炭素同位体比には影響を及ぼさない程度のメタンハイドレート(MH)が持続的に大気海洋系に流入した。」としている。炭素同位体比に影響を及ぼさないような量のMHの融解がこれほど大きな温度上昇をもたらすことは考えにくく、逆にこれほどの温度上昇をもたらすようなMHの流入ならCIEが起こらないはずがないのである。このような矛盾した仮定を平気で行ってしまうのはどうしても「温室効果による温暖化」から発想が抜け出せない典型である。また「気候感度から考えてPETMの温暖化の原因はCIEの炭素だけでは不十分」というZeebeらの論文を紹介したが(2.CIEの原因)、その解説としてBeerlingは「我々がまだ知らない気候の正のフィードバックがあるのではないか」と訴えている。論文著者のZeebeらが「温暖化を説明するには(炭素流入以外の)何か他の要因が必要である」と明確に述べているにも関わらず「実は気候感度はもっと大きいのではないか」ということである。もはやこれにはあきれてしまうしかない。彼らには目の前のデータさえ全く見えていないようだ。データを正面から見れば無理なこじつけ理論であることは明白だが、「温室効果による温暖化」にこだわってそれ以外のことは考えられない思考過程に陥っているためそのことがわからないのである。まさに典型的な温暖化論者としかいいようがない。

本項の要旨の一部は日本気象予報士会西部支部2008年1月例会(2008年1月12日)にて「暁新世・始新世温度極大期最新の知見」として述べたものです。
 
注1)
渦鞭毛藻は単細胞のプランクトンで基本的に独立栄養であるが、そのライフサイクルの一時期には従属栄養の形をとる。環境の変化、主として貧栄養状態などに陥ると休眠型のシスト(Dinocyst)を大量に作り、このシストのみ化石として残存することが可能である。Dinocystが急増したことは何らかの環境変化が海表面温の上昇に先だっていたことを示している。
 
注2)
TEX86(‘tetraether index’ of tetraether lipids consisting of 86 carbon atoms)は栄養状態や塩分とは無関係に古水温のマーカーとなる膜脂質の成分である。近代の堆積物で調べると年平均海表面温と直線関係が認められている。(海水温の絶対値も推定可)
 
Nisbet,E.G.et al.Kick-starting ancient warming.NatureGeoscience 2:pp156 – 159(2009)
 この雑誌は購読者でないと見れないかも。(陳謝)
Beerling,D.J. Enigmatic Earth. NatureGeoscience 2:pp537 – 538(2009)
 この雑誌は購読者でないと見れないようです。(陳謝)

Sluijs,A . Global change during the Paleocene-Eocene thermal maximum. General Introduction and Synopsys.p14
 
 
 

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暁新世・始新世温度極大期;3.繰り返す温暖化イベント

 これまでPETMについての特徴的な所見を見てきたが、地球の歴史においてこのような極端な温暖化イベントはまれなできごとなのだろうか?という疑問が湧いてくる。深海から掘削した堆積物コアは重量%において90%以上を炭酸カルシウムが占めており白っぽい色をしている。ところが、PETMの層準では炭酸カルシウムの重量比が10%以下まで低下しており特徴的な暗赤色の粘土層となっている。
 LourensらはWalvis Ridge(亜熱帯南大西洋のアフリカ沖にあたる)から得られた堆積コアの下位始新世の地層からElmo層準と名づけた暗赤色の粘土層を発見している。この地層を調べてみると炭酸カルシウムの重量比が90~95%から40%以下に低下しさらにスパイク状の1.0~1.2‰のδ13Cの負移動、つまりCIEが起こりその後指数関数的な回復をしていた。また安定酸素同位体比δ18Oも1.6‰低下しており海水温の上昇を伴っていたことがわかった。まさに「ミニPETM」ともいうべき変化がこの時代にも起こっていた。この期間はEocene Thermal Maximum 2(ETM2)と呼ばれている。北大西洋、Southern Ocean、太平洋からも時代が一致する同様の特徴を持つ地層が発見されておりETM2もPETMと同様全世界的なイベントであったと考えられる。さらにPETMとETM2の期間が約200万年であり、堆積物のmagnetic susceptibility(磁化率)などの検討により両者ともに225万年の離心率周期の長期間に及んだ最小期の直後に起こった40.5万年と10万年の周期の最大期に一致して起こっていることを示している。注1) またSluijsらは、北極海のLomonosov Ridgeの海底堆積物コアのX-ray fluorescence scanning(XRF)分析によりETM2は歳差運動と密接な関連があることを指摘している。最近の氷期間氷期サイクルと同様、ここでもミランコビッチサイクルが地球の気候に対して大きな影響力を持っていたことになる。注2)
 さらにWesterholdらは同じWalvis Ridgeの掘削コアからXRFにより「(温暖化イベントは)10万年と40.5万年周期の離心率周期によって調節された歳差運動の周期によって支配されている。PETMもETM2も10万年周期の最大離心率の時期に関連して起こっている。両者ともに40.5万年周期の最大離心率期の前後4分の1の時期に起こっておりPETMは最大離心率より遅れ、ETM2は先立って起こっている。」ことを見出している。またRöhlらもWalvis Ridgeのコアから約5200万年前のPETM-like変化を示す粘土層を第3の温暖化イベントとして報告している。
 2007年にはNicoloらが、ニュージーランド南島の5400万年前から5300万年前の地層の露頭からPETMとは別の4つの陸源のマール(泥灰岩)層準を発見し、これらもPETMと同様のCIEなどの特徴を持つことを報告している。
 以上をまとめると暁新世末から始新世にかけては少なくとも5回の温暖化イベントがあった。これらはすべてCIE、すなわち大気海洋系への12Cリッチな炭素の流入を伴っていた。その中で最初に起こって最もメジャーなイベントがPETMである。また1番目のPETMと2番目のETM2は地球軌道の離心率最大期に起こり、なおかつ歳差運動とも密接な関連があることが示唆されている。このことはこの時代においてもミランコビッチサイクルが温暖化イベントの発生に深く関与していることを示している。
 
参考論文 
 
 
Röhl, U. et al. The third and final early Eocene thermal maximum: characteristics, timing, and mechanisms of the "X" event, Geological Society of America Annual Meeting Abstracts 37:264.(2005)
 
 
注1)ミランコビッチサイクルには離心率(Eccentricity)、歳差運動 (Precession)、および自転軸の傾斜角 (Obliquity)の3つがあり、離心率の周期は約10万年と40.5万年、歳差運動 は約2万年、自転軸の傾斜角の変化は約4万1000年の周期で変化しているとされている。PETMのような極端な温暖化イベントは離心率が大きくかつ近日点での地軸の傾きが北半球の夏になるような歳差運動周期のときがもっとも起こりやすいと考えられている。
 
Milaeccentricity.jpg左図は離心率による季節による地球への日射量の変化の模式図




Milaprecession.jpg左図は離心率最大時の歳差運動による地軸の傾の影響





注2)
ミランコビッチサイクルと海底堆積物の磁化率変化の関係はYamazaki,T. and Oda,H.に詳しい。彼らはニューギニア沖で採取された230万年におよぶ堆積物の地磁気の伏角と強度の変動に10万年周期があることを発見しこれとミランコビッチサイクルの離心率の変動が同期していることを報告している。
 
参考論文
Yamazaki,T. and Oda,H.Orbital Influence on Earth's Magnetic Field: 100,000-Year Periodicity in Inclination.Science 295. pp. 2435 – 2438(2002)

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2015年、太陽から黒点が消滅する

 最近、太陽黒点の出現が少なくあちこちで太陽活動の異常を指摘する声があがっている。私自身もそう考えている者のひとりだが、我々はMaunder Minimumのような太陽活動の停滞期の入り口に立っているのかもしれない。
 太陽黒点はspotとporeの2つに分類される。中心部にはumbra(アンブラ)と呼ばれる暗い部分があり、その周囲にやや明るいpenumbra(ピナンブラ)が存在する。磁場はumbraでは表面に対して垂直な方向を示しており、penumbraではほとんどの場合表面に平行である。この二つからなる黒点を「spot」と呼んでいる。これに対してpenumbraを伴わない小さなdot状のumbra のみのものをporeと呼んでいる。
 Penn&Livingstonは2006年に大変興味深い論文を発表している。彼らは1998年から2005年まで900を越えるspotの中心部のumbraを赤外線(IR)で観察した。
pennlivingston1.jpgPenn, M.J. and Livingston, W. Temporal changes in sunspot umbral magnetic fields and temperatures. Astrophysical Journal 649: L45-L48 (2006)より引用



図は代表的な結果である。実線が1998年9月18日、点線が2005年12月27日のものである。1998年9月18日の観測では波長1564.8 nmのFe Ⅰの吸収線はZeeman splittingを起こしている。この間隔から磁場の強さが2688 Gと推定されている。それに比して2005年12月27日の観測ではZeeman splittingの間隔は狭くなっており、時間とともに磁場が弱まっていることがわかる。(つまりこのsplittingの程度からumbraの磁場強度が推定できるということである)これを1年ごとにまとめたのがリンク先の論文のFig.2である。彼らによればumbraの磁場は1年に52 Gずつ減弱しているとのことである。
pennlivingston2.jpgLivingston, W. and Penn, M.J. Are Sunspots Different During This Solar Minimum? EOS,Transactions, American Geophysical Union 90: 257-258 (2009)より引用





 次に1998年の観測ではOH分子による強い吸収線が波長1565.2 nmと1565.4 nmに見られるが、2005年の観測では弱くなっている。これは温度が高くなるとOH分子は分解される傾向があり、6640 K以上の温度ではOH分子による吸収線は認めなくなる。(つまりOH分子の吸収線の深さからumbraの温度が推定できるということである)このデータを年ごとにまとめたのがリンク先の論文のFig.4である。この8年間の観察期間に吸収線の深さは平均して50%も浅くなっている。
 さらに彼らはumbraの明るさをすぐ近くの平穏な光球と比較して明るさの比を観察している。この結果、1998年には0.60倍しかなかった明るさが2005年には0.75倍まで明るくなっておりumbraは年とともに明るくなっていることがわかった。1年ごとの平均についてグラフにしたのが、論文のFig.3である。この明るさを黒体に換算すると5137 Kから5719 Kにまでumbraの温度が上昇したことになる。これはOHの吸収線が浅くなったこととも一致している。
 まとめるとこの8年間で黒点の最暗部であるumbraの磁場は低下し温度は高くなりかつ明るくなっている。これは11年の黒点周期とは無関係に継続している。さらに彼らの観測によるとumbraの磁場の強さは1500 Gが最低値であるという。1500 G以下の磁場では「黒点」として認められない可能性を指摘し、彼らは最後に次のように論文を結んでいる。
「If 1500 G represents a true minimum for spot magnetic fields and the field strengths continue to decrease at the rate of 52 G yr_1, then the number of sunspots in the next solar cycle (cycle 24) would be reduced by roughly half, and there would be very few sunspots visible on the disk during cycle 25.」
「もしも、1500 Gがspotの真の最低値を代表しており磁場強度が52 G/年の割合で低下し続けるとするならば、次の黒点周期(周期24)には黒点数はおおよそ半分に減少するだろう。そして周期25中にはほとんど黒点が見られなくなるだろう。」(ブログ主の一応の訳)
 
 あれから3年あまり、今年(2009年)EOS誌の7月28日号に彼らによる続報が掲載されている。ここで彼らは現サイクルで見られる黒点は小さなporeがほとんどであり、観測結果は数年前に彼らが論文で予測した範囲内に留まっておりこのまま単純に直線を外挿すると2015年には磁場の強さが1500 Gまで低下し、黒点が消滅する可能性を指摘している。(図の直線を1500 Gまで延長!)つまり、世間では「異常」と騒がれている現在の太陽活動の低下も実は彼らの観測結果からは想定の範囲内であるということである。
 このままの傾向が続けばあと数年で太陽から黒点が消えてしまう可能性が高い。その時地球の気候はどう変化するのだろうか? 1645年から1715年の有名なMaunder Minimumは小氷期のなかでももっとも寒冷な時期として知られている。もしかしたらそのような寒冷化が起こり、世界中で食物生産などに大きな影響がでるかもしれない。現在知られている太陽活動停滞期はすべてレトロスペクティブに発見されたもので、今回は我々があらかじめ予測できた初めての例になるかもしれない。現在の人類は太陽を詳細に観測する技術を保持しており、貴重な観測資料を提供するまたとない機会になるだろう。そういう意味では彼らの予測が当たることを半ば期待する面もある。それでも温暖化論者は寒さに凍えながら「これは一時的な自然の揺らぎで長期的には温暖化の傾向は変わりない。温暖化対策を続けなければならない。」と叫び続けるだろうが(実際にPDOに関してはそのようなad hocな言い訳をしている)、もはやまともな市民はだれも相手にしなくなるだろう。(笑)私は来るべくPenn&Livingston Minimum(こう名づけるべき)をけっこう楽しみにしている。なんとかそれまで長生きをしたいものだが・・・・・・。
(2009年9月1日一部修正)
 
参考サイト
 
参考論文
Penn, M.J. and Livingston, W. Temporal changes in sunspot umbral magnetic fields and temperatures. Astrophysical Journal 649: L45-L48 (2006)
 
Livingston, W. and Penn, M.J. Are Sunspots Different During This Solar Minimum? EOS, Transactions, American Geophysical Union 90: 257-258 (2009)
 

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