Naturegeoscienceの2009年11月号にSluijsの論文が掲載されている。この雑誌は2年前の創刊号から購読しているのだが、あまりにもつまらない論文が多い(ばかり)ので購読するのをやめようかと思った矢先のできごとである。今、ちょっと迷っている。(笑)
以下抜粋
Sluijsらは古緯度85°Nの北極海のLomonosov Ridgeの海底堆積コアからEocene Thermal Maximum 2(ETM2)温暖化イベントについてレポートをしている。ETM2は約5350万年前に起こったPETM(5550万年前)に次ぐ2番目の温暖化イベントである。(今後はonsetの年代は最も確からしい値ということでこの数値を使用;by はれほれ)ETM2時のCIEはさまざまな場所からのデータがあるものの、温暖化の証拠は亜熱帯南東大西洋の浮遊性有孔虫から得られたδ18Oの0.8%の負移動しか証拠がない。このイベントがグローバルな温暖化をもたらしたものかどうか北極圏でのデータが注目される。
彼らはPETMから20mほど上位の層準でCIEとdinocystの生物学的層序学によってETM2を同定した。20cmほどの間に-3.5%のCIEを認め1m足らずの間に背景値に復している。(たとえばPETM時の高分解記録Bass Riverは約17万年のCIE期間で10.3mの堆積率である;by はれほれ)
ETM2の期間は渦鞭毛藻のdinocystは低塩分耐性で富栄養を要求する種がメインになり、一方で海洋性の種が消失している。これはETM2期間の北極海表層水の低塩分化と富栄養化を示しており、これは地上由来の花粉や胞子の増加とともに北極圏での降水と河川からの流入の増加を示していると考えられる。ラミネートされた沈殿物の出現や有機有孔虫の内面(lining)が欠如しているのは底層水が無酸素状態(anoxic)を示している。この時期に一致して塩分耐性の渦鞭毛藻の最も豊富に存在しカロチノイドの誘導体である硫酸結合イソレニーラテン(isorenieratene)が記録されている。これは光合成緑色硫酸細菌の褐色strainに由来し、有光層が還元性(無酸素硫化的)状態であったことを示している。
当時は陸域に近いロケーションで水深は200m程度と推定され花粉や胞子などの陸上由来の堆積物も多く見られている。花粉は種にメタセコイアなどの針葉樹が主だが、最も温暖だった時期に一致してヤシの花粉が1~4%に認められている。現存のヤシは花粉量が小さくこの低い出現率でもかなりのヤシがこの時期北極圏に存在したと考えられる。ヤシは最寒月平均気温(CMMT)が5℃以下の地域には自生せず、この時代北極圏のCMMTは8℃以上であったと考えられる。
TEX86’(おそらくTEX86の改良版と思われる。5~30℃の範囲でSSTと直線関係があり、誤差は2℃以内)によるsea surface temperature(SST)の再構築ではETM2前後の背景SSTは22 1.4 °CでETM2期間には26~27℃に上昇している。
ETM2とPETMを比較すると両イベントともに急速な温暖化、淡水流入の増大、生物学的生産率の増大、水柱の無酸素状態の発達を示している。さらにXRF scanがelemental intensityで同じパターンを示しており、Fe、Sにおける増強はPETMでは海底でのさらなる還元状態を反映していると解釈されているが、ETM2でも同様であり成層化と無酸素状態を示す証拠と一致している。これらの同一性は陸上、浅海、深海での質的に同じ気候応答をPETMとETM2は共有していると言えるであろう。またPETM時に見られた渦鞭毛藻とは異なる種がETM2では出現している。これは低塩分化がETM2の方が強かったため、降水や河川からの流入はETM2の方が大きかったか、地形的な影響のためと考えられる。背景となったSSTはETM2の方がPETMよりも約4℃高かった。実際にPETM時のピーク温度とほとんど同じであり、これは早期始新世の長期間の温暖化傾向と一致している。しかし北極海の温暖化は他の地域に比べて大きく、アイスアルベドフィードバックの欠如にもかかわらず極域では温暖化が増幅されている。ピーク時のSSTもETM2の方が3℃ほど高い。これはヤシの花粉の出現からも推測される。「CMMTが8℃以上」は早期始新世北極圏の冬季気温の最初の見積もりであり、早期始新世の二酸化炭素濃度と地勢学において強制されるモデルでは氷点より著明に低いCMMTを産生する。おそらくモデルには組み込まれていない雲を介したフィードバックが高CO2濃度のもとでの冬季北極圏の寒冷化を著明に減弱していると考えられる。それゆえそのようなメカニズムが顕著になる温室効果ガスの閾値と気候によって将来の北極圏の温暖化に対する予測がしにくい正のフィードバックを含んでいる。
抜粋ここまで
ETM2でも世界規模の温暖化イベントと考えられ、なおかつPETMよりSSTは高かった。水柱の成層化が進み底層では無酸素(anoxic)な状態が続き、有光層も還元的状態であった。低塩分化もPETMより強かった。実は1.概要で書き忘れたのだが、PETM時は深海底はanoxicな状態になっており底性有孔虫の絶滅の原因と考えられている。この論文では大気中CO2濃度の推定値やCIEの原因となった12Cリッチな炭素の放出量や海水pHの変動の推定などには触れられていない。また地層の堆積率が小さいためCIEやSSTの上昇についての正確な順序も明らかにはなっていない。しかしやはり現モデルでは温度勾配の小さなSSTは全く再現できていないようである。Sluijsらは「雲のフィードバック」を候補に挙げているが、これも根拠のない推測に過ぎない。それよりも個人的には最近のSluijsの発言には切れのよさが感じられなくなっている。もしかすると温暖化派に寝返ったのだろうか?まさか・・・・・。
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