温暖化論者にとって、キリマンジャロの氷河の縮小とシロクマの絶滅は「聖域」のようである。両者とも温暖化とは無関係のことはすでに明らかになっているにもかかわらず、大衆受けするテーマであるため環境活動家が確信犯的に宣伝に利用しそれに乗せられたマスメディアもしばしば大きく取り上げている。さらに事実を知らない「善意の人々」がインターネットなどでこれを増幅している、というのが現状と思われる。
シロクマについてはお膝元、アラスカIARCの赤祖父俊一の著作に詳しい。またキリマンジャロに関しては以前、氷河の縮小と気温の上昇は直接関係はないというKaserの論文を拙ブログでも紹介している。またゴアの映画「不都合な真実」でもキリマンジャロの問題が取り上げられていたが、イギリスの裁判所からダメ出しをされたという事実がある。したがって今さらキリマンジャロの問題に関しては興味がないのだが、この問題に関する貴重な観測記録を記載した論文が出たので少しだけ触れておく。
Duaneらは高度1890mから5800mのキリマンジャロの南西斜面に散在する7ヶ所の測候所で地上1.5mの気温と相対湿度を2004年9月から2006年1月までの16ヶ月間の11600時間にわたって1時間おきに記録している。高度と気温の関係は一様ではなく森林地帯では気温の変化は緩やかになり、逆に雪氷地帯では急に変化する。平均的に相対湿度と水蒸気圧の絶対値は高度が上昇するにつれて減少するが、季節や日中の相対湿度の変化は山頂に向かって大きくなる。日中の強い上昇流によって水蒸気が山頂に向かって運ばれ夜間の下降流によって山頂部は乾燥する。(参照、山岳地域の局地風:山谷風)特に6月、7月は低地の冷却が強く山頂の水蒸気を減少させ結果として対流活動も弱めることになる。このことは相対湿度>95%域を代替指標としたこの期間の雲量の減少によっても支持されている。キリマンジャロの低高度の斜面が山頂部の水蒸気の主な供給源であることが観測された。彼らはこれらのデータから近年のキリマンジャロの氷河の減少について議論している。
一応引用先のAbstractではここまで。あとはCO2scienceからの引用となる。彼らのデータによれば気温は最も高い地点でも氷点以下に十分とどまっており雲の被覆と湿度のパターンが氷河と気候の相互作用に関する理解に対して中心になる。現在のキリマンジャロの山頂部のほとんどすべての水蒸気は山岳熱循環によって低高度の斜面から運ばれている。(つまり高高度の水平移流よって運ばれるものはほとんどないということである。)このことから普通に考えれば氷河の縮小の原因として「気温は無関係」。さらに乾燥化の原因として「低高度の斜面からの水蒸気の供給が減少した」か「昔は高高度で水平移流が(たとえばインド洋上空から)があったが、今は大気の大規模循環が変化してこれが無くなった」ということが考えられるであろう。もしも温暖化論者がキリマンジャロの氷河の縮小の原因を地球温暖化(=大気中CO2濃度上昇)のせいにどうしてもしたいのならCO2濃度の上昇で大気循環が変化したことを証明しなければなるまい。昔と今の写真を比べて騒ぐだけでは説得力は皆無である。
Duaneらのデータは「キリマンジャロの低斜面は山頂の氷河を成長させる『雪』と地表面のエネルギー収支に影響を与える『雲』の形成の両方に対して重要である」ことを強く示唆している。また「日中は森林地帯からの水蒸気の正味の輸送があり、低地の森林伐採の結果としての土地利用の変化がより高地への水蒸気の供給効率を弱めているというこは言えるかもしれない。」と乾燥化の原因として大規模大気循環の変化より、低高度斜面の乾燥化を第一に考えているようである。これは先に紹介した乾燥化を指摘したKaserの主張を支持する内容である。どっちにしても温暖化が原因ではあり得ず「そんなの関係ねぇ」と思ってテーブルの上のコーヒーを見たら「キリマンジャロ、タンザニア」とある。もしかして原因はこれ?1880年頃からこの地域でコーヒー栽培が始まっていたとしたら・・・・・・。(2008年10月4日一部修正)
参考論文
Duane, W.J.et.al. General characteristics of temperature and humidity variability on Kilimanjaro, Tanzania. Arctic, Antarctic, and Alpine Research 40: 323-334.(
2008)
参考サイト
CO2science
Kilimanjaro's Summit Glaciers[3回]
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