これまで拙ブログで太陽活動の変化と地球の気温の変動の密接な関係を示す論文を紹介してきた。これらのひとつの論拠として有名な図が下の図だ。
(図Lassen1991)
(図Lassen1999)
図の上段をみると、以後は気温の上昇傾向があるにもかかわらず活動周期はむしろ延長傾向にありこれから予測される気温は低下傾向が示されている。下段は(観測温度-周期長からの予測値)である。二つの差は1980年代後半から大きく開いていることがわかる。太陽周期長と地表気温間の負の相関関係は認められなくなっている。この図も有名な図で数年前はこの図を根拠にして太陽活動と地表気温の関係を全否定するような温暖化論者のブログなどがあちこちに存在したように思うのだが、残念ながら今回は探しきれなかった。かろうじて見つけたのは
こちらのブログである。このブログ主の結論は「1980年頃以降の地球温暖化を太陽活動だけで説明することは困難である。」というものである。この結論はこのグラフから導かれるものとしては妥当であろう。上記のレポートにも
「We conclude that since around 1990 the type of Solar forcing that is described by the solar cycle length model no longer dominates the long-term variation of the Northern hemisphere land air temperature.」
「我々は1990年頃から太陽活動周期長モデルの強制力は北半球陸上気温の長期変動をもはや支配していないと結論する。」
とある。しかし、少なくとも1980年代前半以前の両者の関係は認めなくてはならないし、それを否定する根拠はどこにもない。また宮原ひろ子の放射性同位元素14Cを使った屋久杉での研究など古い時代でも太陽活動の周期長と地表気温の相関関係を明示している論文もある。
この論文のもとになるデータの学会発表時に私はその場にいたのだが、この時は「気温が高かった中世温暖期では9年周期であり、寒冷だった小氷期では周期はかなり延長していた。」というように理解していた。ところが
論文のプレスリリースをみると、
「中世温暖期と現代の太陽活動とを比べると、現代の気候はその影響で説明できる以上に温暖化しているようです。人為起源の温暖化ガスの影響によって、気温が自然のサイクルでは説明できないほどに上昇していることを示しています(図5)。この結果は、昨年発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告の内容を支持するものとなっています。」
と突然IPCCを支持する内容になっている。私は彼女の知的エレガントさのファンだっただけになんか裏切られた気分になった。後日気象予報士会の例会で宮原のデータを引用した際にたまたまその話をだすと宮原が気象予報士会東京支部の例会で講演した際(彼女はいやな顔一つせず引き受けてくれたらしい)懇親会で同席したという方がいて興味深い話をしてくれた。(ウラは取っていませんが、この方は私と違って(笑)信頼のおける人です)曰く
「論文にするときは上司との兼ね合いでIPCCを否定するような表現はしにくいのでああいう表現になりました。でも見る人がみればちゃんとわかるように書いています。」
とのこと。う~ん、そうだったのか。疑ってごめんなさい。(笑)ということで
彼女の論文から抜粋すると
「The 9-year solar cycle through the EMMP might be suggesting that
the sun was more active than the recent centuries. The rapid global
warming of the 20th century appears to have exceeded the level that
can be explained by the increased solar activity. Reconstructions of
climate during the EMMP with high time resolution, high precision
and high spatial resolution are urgently needed to compare the states
of climate during EMMP and present and to deepen the knowledge
about the effect of anthropogenic and natural causes on the global
warming.」
「early Medieval Maximum Period(EMMP)早期中世温度極大期を通した9年サイクルは現在の世紀より太陽が活発だったことを示しているのかもしれない。20世紀の急速な地球温暖化は増加した太陽活動によって説明されうるレベルを超えていたように見える。EMMPの気候の状態と現在の気候を比べるためと地球温暖化に対する人為的要因と自然要因の効果について知識をより深めるために高時間分解能、高正確性、高空間分解能のEMMP期間の気候の再構築が緊急に必要とされる。」
つまりよく調べたら中世の方が現在より気温が高いはずだ!ということだろうか?たぶんMannのホッケースティックにこだわるなということであろう。
このように1000年以上前のEMMP、数世紀前のMaunder Minimumそして150年前から10数年前まで太陽活動周期長と地球の気温は良い相関関係を保ってきたのになぜ最近になって相関関係がくずれたのだろうか?これにはいろいろなことが推測できる。「近年になって二酸化炭素などの温室効果ガス濃度が増加したためこの影響が大きくなった。」というのもひとつの説明としては当然「あり」だろう。ここではもうひとつの可能性を示す。
(Table)
これからわかるように彼らは北半球陸上気温のデータセットとしてJonesのものを使用していたのだ。つまりCRUTEMの北半球版と考えてよいだろう。
以前に述べたようにこのデータセットも当然NCDCによる観測ステーションの間引きの影響を受けているはずである。しかも陸上気温であるから海水温データを含む全球データと違って、都市化の影響が増幅されるはずだ。
(再掲ステーション数)
1980年代半ばから気温が上昇を始め太陽活動周期長との乖離が大きくなっている。これはNCDCの観測ステーション数が謎の減少を始めた時期と一致している。偶然ではあるまい。さらに
(再掲サテライト)
この衛星データと地上気温との関係をみると衛星データの方が1980年代後半から観測値より0.3℃程度低くなっている。Jonesのデータセットの代わりに途中からこの衛星データを使えば、まさにピッタリ一致するグラフができあがるのではなかろうか?残念ながら私にはそんな統計処理の能力はないのでだれかtryしてくれないだろうか?そうtrickを使ってhide the dissociationである。(笑)
Climategate以降、気候科学の根幹となるデータが揺らいでいるためすべてのデータを根本的に見直す必要があるという一つの例である。今後もこういうケースが多数でてくるだろう。
参考論文&サイトなど
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