温暖化論者の得意の脅し文句に「北極海の氷が消失してシロクマが絶滅」というのがある。特に2007年夏の減少はグラフを見てもわかるように、それまでの年を大きく上回って(グラフの2008年と2009年はまだ存在していない)マスメディアが大きく騒ぎ立てたため拙ブログでも取り上げた。私自身はこの海氷の減少は大気中二酸化炭素濃度の増加などとは全く無関係と考えているのだが、温暖化論者や環境団体は無条件に「地球温暖化による現象である」と狂喜してうるさくがなりたてるのが常である。
9月の最小面積は2007年が突出して小さいことが分かる。
(左)2007年最大時
(3/10:13,945,625km2)
(右)2007年最小時(9/24:4,2545,31km2)
最近Geophysical Research LettersにWoodgateらの論文が掲載され、年明け当初は同誌のアクセスランキング上位を占めていた。この論文は北極海の海氷面積問題の決定盤となりうるものであり、今後は上記のような温暖化論者の主張にはだれも耳をかさなくなるであろう。(それでもしつこく訴える無知な環境団体などには冷たい視線を!)
以下ブログ主の要約
Woodgateらによると、1990年からベーリング海峡の3か所で海流や海水温を連続して観測し、さらに衛星データから海表面温度(SST)を得た。それによると年平均海水輸送は北向きに0.8Sv注1)程度だが、1か月に0~1.5Sv北向きや1日に2Sv南向きから3Sv北向きまで実際には大きな変動が存在する。海水輸送量の年ごとの変動も大きく2001年(0.6Sv)は年間を通して北向きの海流が弱く、2005年(0.7Sv)は年終盤の異常な南向きの海流のために北向きの海流が小さかった。逆に2004年と2007年(~1Sv)は冬季および夏季のほとんどの期間の強い北向きの海流によって最大の輸送量となった。
海水温は冬季の凍結状態から夏季にはSSTが10℃、海底付近は4℃になる。海底付近の年平均水温は2001年から2002年にかけて約1℃上昇した。(-0.2~-0.5℃→0.1~0.4℃)
海水輸送量の多さと高水温の間には明らかな関係は認めなかったが、2007年はどちらも高値であった。海峡での海水温は西側が低く東側が高い。熱輸送量は2001年から2007年にかけて増加し2007年には最高の5-6x1020J/yrとなった。これは2001年の熱輸送量の2倍に相当し、Chukchi海に入射する年間太陽放射に匹敵するエネルギーであった。さらにこの輸送された熱量は2007年夏に減少した海氷(約8,700,000km 2)の3分の1を溶かすことが可能であった。ベーリング海峡から流れ込む太平洋の海水(PW)はその正味の輸送量に比して輸送される熱量が大きい。たとえば海水輸送量はフラウ海峡(グリ-ンランドとスバールバル諸島の間)の10分の1だが、輸送される熱量は3分の1である。これらのことからPWは海氷の退縮に重大な役目をはたしていると考えられる。海氷を溶かしたり結合をゆるめて海氷の移動を容易にして、海水面を露出させることによって夏季の日射による海氷の融解の引き金となっている。また海氷が移動することによって太平洋から北極圏へ向かって吹く風が強くなり、これがさらなるPWの流入を起こす正のフィードバックが想定されている。また流入したPWは滞留時間が長く冬季において海面下での熱源になっておりこれは、西北極の海氷を薄くすることに関与しているかもしれない。
温度と海水輸送量の変化に年ごとにかなりの変動があり、特に輸送量は太平洋-北極海圧較差によって駆動される変動に著明に影響されている。(~0.2Sv相当以上)
2001年(推定輸送熱量2.6-2.9x1020J/yr)から2004年(同4.3-4.8x1020J/yr)にかけて増加した熱輸送量は層厚1mの海氷を640,000km 2の範囲わたって溶かすのに十分であった。実際に2001年と2004年の海氷面積の最小値の差は700,000 km 2でありこの増加した輸送熱量に匹敵する。(2004年と2007年の最低海氷面積の差は1,530,000 km 2)この年ごとの熱輸送量の変動はChukchi海に入射する年間太陽放射の変動よりもわずかに大きい。この海水輸送量の年ごとの変動は風の強さだけではなくて太平洋-北極海間の圧較差によっても駆動されている。
要約ここまで
結局夏季北極海の海氷の融解は太平洋から北極海に海流で輸送される熱量、大西洋から流入する暖水(赤祖父)、太陽放射によって起こっている。しかもこの論文のデータからは年ごとの夏季北極海の海氷面積の年々変動は太平洋からの熱輸送量に大きく影響されているように見える。もちろん大西洋からの熱輸送量の観測も必要であることはいうまでもないが、大気中二酸化炭素濃度とは無関係である。
我が家の冬は寒く浴室暖房がほしいと思う今日この頃であるが、浴室を暖房することによって風呂を沸かそうとする人間が果たして存在するのだろうか?ちょっと冷静になって考えればわかる話である。いずれにしても環境活動家やマスメディアに踊らされて騒ぐのはもうやめにしたいものである。
注1)1Sv(スベルドラップ)は100万m3/s
(2010年2月3日一部修正)
参考書籍
赤祖父俊一 正しく知る地球温暖化 誠文堂新光社(2008)
参考論文
[8回]
PR
COMMENT
大気放射と熱移動
この論文では、灰色大気のようなモデルは地球のエネルギーバランスの考察で赤外線の移動と熱の移動を混同していると指摘しているようです。
そこで灰色大気モデルについて赤外線と熱の移動を見てみると、やはり赤外線の移動が即熱の移動に置き換えられており、これが熱力学第二法則に反する熱移動になっているのですね。気層が3層あるモデルを考えると中間の気層2は上の気層1からσT1の4乗、下の気層3からはσT3の4乗の赤外線による熱をもらい、気層1と3にσT2の4乗の熱を放出し、もらう熱量と放出する熱量が等しくなる(放射平衡)として各層の温度を計算しています。実際はもらう量、放出する量は熱でなく赤外線の移動量で、上層ほど低温の大気(T1<T2<T3)では気層2は上の気層1へはσT2の4乗-σT1の4乗の熱を放出し、下の気層3からはσT3の4乗-σT2の4乗の熱をもらうことになります。熱は高温から低温に移動し、下層に移動する赤外線は下層の放射冷却を抑止します(対流により下層がより断熱圧縮し、上層がより断熱膨張して生じる気温減率で、地表が高温になり赤外放射量が多くなって冷却するのを大気放射の下方成分で抑止して一定の減率を維持する)。しかし、灰色大気モデルでは各層からの放射を最初から熱移動としているところが間違いのもとのように思います。いずれにしてもこの灰色大気モデルは簡易過ぎて量的な議論は困難と思います。CO2のような一部の波長でのみ赤外活性のものと赤外活性波長領域の広い水蒸気や雲も同じσで仮定されているなど注意が必要と思われます。
Re:大気放射と熱移動
>予報士会のMLで話題になっていますね。はれほれさんも、
>もしかして議論に参加されているのでしょうか?
>私はそこでは静かにROMを貫いています。
いやいや、あそこにはウラ掲示板というのがあってそこでは温暖化に異を唱える人々はボロクソに言われているそうです。(もちろん未確認情報で私は覗いたことがありませんが)ああいうところにはROMのまま出ていかないのが賢明と思います。(笑)
>温暖化を信じる人は灰色大気モデルを正しいとの前提で理解しようとしますから、
>どうしても違和感を感じてしまうのでしょう。先入観とはすごいものですね。
私も同感です。自分が知っていたことと違うというだけで、無条件に後から来たものを拒否してしまうというパターンは人間避けて通れないようです。私はダイオキシン問題でそのことを経験していますので異説に出会ったときは慎重に判断するようにいちおう心がけています。それでもなかなか先入観から自由になることはむつかしいですね。
>灰色大気のようなモデルは地球のエネルギーバランスの考察で
>赤外線の移動と熱の移動を混同していると指摘しているようです。
>そこで灰色大気モデルについて赤外線と熱の移動を見てみると、
>やはり赤外線の移動が即熱の移動に置き換えられており、
>これが熱力学第二法則に反する熱移動になっている
>灰色大気モデルでは各層からの放射を最初から熱移動としているところが間違い
>この灰色大気モデルは簡易過ぎて量的な議論は困難
>CO2のような一部の波長でのみ赤外活性のものと赤外活性波長領域の
>広い水蒸気や雲も同じσで仮定されている
これはすべておっしゃるとおり、全面的に同意します。温暖化を支持する人はどうしてもこの「灰色大気モデル」から出られないようです。(笑)あとつけたすとすれば、灰色大気モデルでは地球が平坦で回転しないことが前提になっています。大気も薄く均一で対流が起こりません。ペーパー予報士さんの例で実際の大気ではT1、T2、T3どれも決定できません。ふつうの放射計算はσ{(T3の4乗)-(T2の4乗)}となるのですが、実際の大気では層厚があってT3やT2が決定できません。これも一因かと思います。
槌田先生の裁判がタイムリーだったようで、あちこちで話題になっていますね。今後が楽しみです。
海流の熱輸送量の増加は太陽放射の増加による?
明快な研究で、定量的に議論されておりすばらしいですね。
>熱輸送量は2001年から2007年にかけて増加し2007年には最高の5-6x1020J/yrとなった。これは2001年の熱輸送量の2倍に相当し、ーーーー。
海流の熱輸送量の増加は、太陽放射の増加によるということになればすっきりするのですが。
http://ishizumi01.blog28.fc2.com/blog-entry-531.html#comment425のご紹介による
http://jp.wsj.com/US/Politics/node_33647の記事
「米ハーバード大学のウィリー・スーン教授は、太陽熱の放射量、特に北極に対する放射量の変化が、地球の気候に、大きな変化を徐々にもたらしていると主張する。」
Re:海流の熱輸送量の増加は太陽放射の増加による?
>海流の熱輸送量の増加は、太陽放射の増加によるということになれば
>すっきりするのですが。
>「米ハーバード大学のウィリー・スーン教授は、太陽熱の放射量、
>特に北極に対する放射量の変化が、地球の気候に、大きな変化を
>徐々にもたらしていると主張する。」
リンク先拝見しました。私が引用した論文では大西洋からの流れ込む海水に比べてベーリング海峡から流れ込む太平洋の海水は単位体積当たりの熱量が3.3倍もあるため海流の方向が海氷への影響が相当大きいということのようです。海流の方向を観測しているだけでなぜ海流の方向が変わるのかということには踏み込んでいません。太陽との関係ではアイスアルベド効果については言及していますが、Willie Soonの主張は太陽放射のダイレクトな増加のようですね。これはたった30年程度の観測を根拠にIPCCやモデラーが最も軽視しているところです。さすがは太陽物理学者と思います。私も太陽放射は今言われているより大きな変動があるのではないかと考えています。このまま黒点数が減少して小氷期に入ればおそらく証明できると思い、少しだけ楽しみにしています。
Morison et al.
J. Morison et al., Geophys. Res. Lett. 34 (2007) 07604.
彼らは2007年に、そろそろ循環パターンが変わりそうだと言っていましたが、確かに海氷面積も07年を底に増加に転じ、お手本のような研究だと思いました。
http://www.jpl.nasa.gov/news/news.cfm?release=2007-131
Re:Morison et al.
>そう言えばNASA・JPLのチームが以前、北極圏の熱塩循環の10年くらいの周期的変動が、北極の氷が溶けている原因じゃないかと報告していました。
>J. Morison et al., Geophys. Res. Lett. 34 (2007) 07604.
論文の紹介ありがとうございました。下記の論文ですね。当時ちらっと見た覚えはありますが、私の環境ではabstractしか読めませんのでよく理解できないままでした。ご紹介していただいたURLにはもっと詳しい説明がありそうです。がんばって読んでみます。
http://europa.agu.org/?view=article&uri=/journals/gl/gl0707/2006GL029016/2006GL029016.xml&t=2007,Morison
>彼らは2007年に、そろそろ循環パターンが変わりそうだと言っていましたが、確かに海氷面積も07年を底に増加に転じ、お手本のような研究だと思いました。
今年、同じJPLチームが2007年の海氷の減少について論文を出していましたね。
http://wattsupwiththat.com/2010/02/19/jpl-missing-ice-in-2007-drained-out-the-nares-straight-pushed-south-by-wind-where-it-melted-far-away-from-the-arctic/
ナレス海峡から海氷が流れ出るアニメーションは迫力がありました。日本にいるとよくわからないのですが、NASAでも温暖化をあおっている部門とそうでない部門があるのでしょうか?
NASA
ジェット推進研究所(JPL)はLos Angeles郊外にあり、ゴダード宇宙科学研究所はNYで、組織も場所も違いますから。NASAの研究者の一人が温暖化に懐疑的な論文を出したからといってNASAが温暖化を否定したわけではないですし、その逆も真です。
うちのラボでも熱烈な温暖化支持派と懐疑的な人が共存してますし、日本よりは健全かもしれません。
Re:NASA
>ジェット推進研究所(JPL)はLos Angeles郊外にあり、ゴダード宇宙科学研究所はNYで、組織も場所も違いますから。NASAの研究者の一人が温暖化に懐疑的な論文を出したからといってNASAが温暖化を否定したわけではないですし、その逆も真です。
ご説明ありがとうございました。田舎者ですのでNASAときくとついイコールハンセンと短絡的思考に陥ってしまいがちです。(笑)
>うちのラボでも熱烈な温暖化支持派と懐疑的な人が共存してますし、日本よりは健全かもしれません。
確かにそうですね。日本ではそんな状態だと口論になって仕事になりません。(笑)私も職場では隠れなんとかを通しています。(笑)
ChurchOfGlobalWarming
元映画 http://www.climatereview.net/
Re:ChurchOfGlobalWarming
>Church Of Global Warmingという映画をとても面白く思いましたので、ちょっと古いかなと思いながらも、日本語の字幕をつけました。今、最後の推敲をしているところで、1~2週間の間に公開するつもりなのですが、この映画の内容で大きなあやまちなどご存知ありませんか?
●ご紹介のフィルムについて、まったく知りませんでした。原語で見てみましたが、「面白そうだ」ということ以外は私の英語力ではわかりませんでした。(笑)ぜひ日本語字幕を付けて公開してください。楽しみにしています。お役に立てずに申し訳ありません。
ChurchOfGlobalWarming公開
いていたとおり、ようやく、動画"Church of
Global Warming"(地球温暖化教会)に日本語字
幕をつけました。この映画は、地球温暖化が人類
起源の二酸化炭素によるものであるのか、二酸化
炭素を削減する施策を実施するべきであるのか、
科学的な証拠を元に冷静に論理的に導こうと試み
ているすばらしい作品です。
少し古い為、特にこのWEBサイトで議論をされて
いる方々にとっては、過去の議論をしている部分
もあると思いますが、海洋熱吸収がどうのこうの
という話が出てくる前あたりの議論について一通
り理解できると思います。これを見て、感銘を受
けて(だまされているかもしれませんが・・・)
字幕をつけてしまったわけです。・・実力不足で
結構大変でしたが、だまされたと思って、ぜひ、
ご高覧を!
(YouTubeは次のリンクをはじめ、
6分割して登録しています)
ttp://www.youtube.com/watch?v=gdebz_p4tm4
(つぎのページからまとめたダウンロードでき
ますが、サーバーがとても弱いのでエラーなど
出たらごめんなさい)
ttp://www2s.biglobe.ne.jp/~gkami/cgw/
この映画で扱われている内容の不足部分などや
時代遅れなあやまち(?)など、皆様方ならご存
知かもしれませんね。
Re:ChurchOfGlobalWarming公開
kamipeflaさん、字幕製作お疲れさまでした。さっそく拝見しました。BeckのCO2濃度の化学的計測の論文まで紹介しており素晴らしい動画だと思います。
今一般に受け入れられている氷床コアから再現されたCO2濃度はかなりいい加減でうさんくさいものです。(時間軸ずらしや高濃度結果の除外など。)
思えばMikerosstky氏はこの解説にうってつけでしたね。
ひとりでも多くの方に見ていただきたい動画です。気象予報士会のメーリングリストでも紹介されていましたよ。(笑)
ChurchOfGlobalWarmingをありがとうございます
ChurchOfGlobalWarmingの字幕、大変な労作ですね。
一通り見させていただいた(6/6は私の環境ではエラーで見られませんでした)感想です。
「温暖化教」の騒ぎがどこかおかしいことが分かりやすく説明されていて啓蒙にはうってつけです。
この中で、気になった点として
1. CO2温室効果でプラスのフィードバック効果は批判されていますが、CO2温室効果理論そのものは概ね正しいと認識され、理論の間違いが紹介されていないこと、
2. 温室効果理論の主流は「灰色大気モデル」と思っていましたが、「ホットスポット」という考えもあるのですね。何か上空が暖まる(減率の偏差としてですが)という「理論」が実際と合わないと紹介されていましたが、この理論というのは、「灰色大気モデル」とどう関係しているのでしょうか?人為温暖化モデルは一つでは無いのですか?
Re:ChurchOfGlobalWarmingをありがとうございます
>2. 温室効果理論の主流は「灰色大気モデル」と思っていましたが、「ホットスポット」という考えもあるのですね。何か上空が暖まる(減率の偏差としてですが)という「理論」が実際と合わないと紹介されていましたが、
この部分ですが、温室効果モデルでは対流圏の上層に一番温暖化が現れやすいという計算結果のことではないでしょうか?nytolaさんとかの方がはるかに詳しいと思います。私は故マイケルクライトンが、盛んにそういう観測事実がないと主張していたのを覚えています。違ってたらすみません。