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悪魔のささやき

気象予報士の視点から科学的に捉えた地球温暖化問題の真相を追究。 地球温暖化を信じて疑わないあなたの耳元に聞こえる悪魔のささやき。それでもあなたは温暖化信者でいられるか?温暖化対策は税金の無駄遣い。即刻中止を!!! Stop"Stop the global warming."!!

   
カテゴリー「PETM」の記事一覧

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暁新世・始新世温度極大期;8.PETMの日本語総説

   以前PETMに関しては適当な日本語の総説がないと述べたが実は長谷川の素晴らしい総説があった。これはCIE(12Cに富んだ炭素の急激な流入)を中心に述べたものであるが、よくまとまっていて、PETMの全体像をつかむには最適であろう。ここでは真のCIEの大きさについて詳しく論じられている。
 まず浮遊性有孔虫の個々の個体を用いた分析ではCIEの大きさは3.5~4.0%とされている。また植物バイオマーカーからは5.1%程度のCIEの規模が得られておりこれが真のCIEの大きさだとすると温度効果やpH効果を考慮しても浮遊性有孔虫では5.5%程度のCIEが記録されるはず。このかい離を説明するために以下のような説明がなされている。
 一つ目は温暖化および湿潤化によって植物バイオマーカーの同位体分別が大きく出てしまったとする。(つまり浮遊性有孔虫の方が真のCIEである)
 二つ目はPETM時の植生の変化によって植物バイオマーカーのCIEが大きくなったとするものである。現生の場合針葉樹より被子植物の方が13Cの割合が小さいのでPETMによる温暖化で針葉樹から被子植物への植生の変化が起こったため、見かけ上植物バイオマーカーのCIEが大きくなったと考えていうものである。
 最後に現生の針葉樹と被子植物の同位体分別の違いは低CO2環境に特有の現象であり、高CO2濃度であった古第三期には当てはまらないとして、植物バイオマーカーこそが真のCIEの値を示しているとしている。長鎖n-アルカンに4.5%(C29)から6%(C27)のCIEの記録がみられ浮遊性有孔虫のpH効果を加味した4.5%と一致するという報告がある。
以上この論争はこれからも活発に続いていくものと思われる。
 
しかし、残念ながらこの総説には個人的に気に入らない部分がある。
CO2による強い温室効果が生じたことがPETMの原因と考えられている。
思わず、何言ってんのと突っ込みたくなる。
これまで「PETM研究は地球の将来予測につながる」という文言は論文を飾るための胡散臭い美辞麗句に過ぎない感があったが
その通り!と賛成したとたんに
今後10年で「重量感を伴う真実味のある言葉」として受け入れられるようになるだろう。
だって。
 
さらに気に入らないのは2007年末のSluijs論文が引用されていないことである。長谷川論文の提出は2008年10月20日となっている。ならばSluijs論文には十分に間に合っており、この論文さえ引用していれば「CIEはPETMの結果」であることが明らかである。なぜ無視したのか著者に直接尋ねてみた。
私の総説は、Sluijs論文が出る前の有機地球化学会における講演を土台として書き上げたもので、その時点で議論に含めていなかったために落ちていると思います。意図的に引用しなかったわけではありません。
とのこと。まあ2008年の論文が引用されてはいるが、ここは著者を信じることにしよう。しかし、原因と結果は卵とニワトリの関係で、最初に火山噴火などで少量のCO2濃度上昇がありそれが温度上昇を招きメタンハイドレートの融解云々とも述べている。以前に述べたNisbetらと同様のこじつけ論である。どうしても「温室効果で温暖化」という先入観から抜け出せない研究者がここにもいるようだ。堆積物が明確に事実を語っているにもかかわらず・・・・である。
 
 

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暁新世・始新世温度極大期;7.PETM-likeイベントと海洋無酸素事変

   地質時代の境界において生物の大量絶滅がみられる、というより我々が化石記録から生物の入れ替わりを目印として地質時代を区切っているというほうが正しいか。一般に五大絶滅事変と呼ばれているイベントがある。古い順に古生代のオルドビス紀-シルル紀(O/S)境界、デボン紀後期のFrasnian-Famenian(F/F)境界、古生代と中生代の境界をなすペルム紀-三畳紀(P/T)境界、中生代の三畳紀-ジュラ紀(T/J)境界、そして中生代と新生代の境界である白亜紀-第三紀(K/T)境界である。このうちK/T境界については最近、隕石衝突による絶滅と結論付けられている。しかし他の4つのうちT/J境界を除く3つの絶滅の原因として考えられているのが海洋無酸素事変(Ocianic Anoxic Events;OAEs)である。
 
   石浜によるとOAEsは有機物に富む葉理が保存された黒色頁岩が全世界的に同時期の堆積をもって定義される。これは酸素不足によって有機炭素が分解されず、また堆積物中に生物がほとんど存在しないため生物擾乱が認められないためである。持続時間は短いもので数十万年から最も長期にわたったと考えられているP/T境界では1千万年とされている。OAEsの原因としては「もともと無酸素状態が存在したために大量の有機物が残った。」とするpreservation modelと「一次生産の増加により分解能力を超えた大量の有機物が供給され二次的に無酸素状態になった。」というproductivity modelがある。おそらく個々のOAEsでその原因は異なるであろうと思われる。またOAEsでは12Cに富む有機炭素が大気-海洋系から隔離されることになるので炭素同位体比δ13Cは正の方向に移動する。
 
 以前ETM2における北極海での変化について述べた。急速な温暖化の結果、降水量や河川から淡水流入が増加して水柱の成層化が起こり、これに一次生産の増加も加わり底層水の無酸素化が引き起こされて北極海で大量の有機炭素が埋没したことを述べた。CIEによって負移動していたδ13Cがゆっくりと回復する(正の移動)過程だ。これはtailと呼ばれている回復過程である。Sluijs らはPETM時には北極海だけで800GtCもの有機物が隔離されたと推定している。これはETM2だけではなくPETMやすべてのPETM-like温暖化イベントでも同様に起こったと推定される。すなわち何が言いたいかというと、PETM-likeイベントの回復過程というのはそこだけを切り離せばOAEsとも考えられるし、逆にOAEsとして理解されているものの中にもPETM-likeイベントの回復期を捉えているものがあるのではないかということである。OAEsの直前に急激なCIE(δ13Cの負移動)が見られること、そしてCIEに伴って(先立って)温度上昇を示す証拠(δ18Oの負移動など)が存在することがその条件となると考えられる。OAEsをよく見直せばPETM-likeイベントは珍しいことではなく、地球の歴史上ある一定の条件において繰り返し起こっているのではないかと私は考えている。
 
 従来より良く研究されているOAEsのひとつにジュラ紀前期のToarcian Oceanic Anoxic Event(以下TOAE)がある。これはおよそ1億9000万年前の中生代、ジュラ紀前期のToarcian期に起こったOAEである。1997年Jenkyns & ClaytonはこのTOAEに先立つδ13Cとδ18Oの負移動を認めTOAEの前に海水温のピークが存在したとしている。これはPETM-likeイベントを示唆している可能性が強い。2006年秋のAGUミーティングで CohenらはTOAEとPETMの類似性を指摘した。さらに2007年には「炭素同位体比の変動」「著明な生物学的絶滅」「顕著な温暖化」「水文学的循環の増強」「全世界的な海洋無酸素事変」の五つの共通項をあげてこれらは環境変化に続いて起こるメタンハイドレートの融解によって説明できるとする論文を発表し、熱い論争を巻き起こしている。もちろん私は彼らを支持する立場である。
 
43b86032.jpg 

 図はSvensmark Cosmoclimatologyから改変





この図はSvensmarkの有名な論文Cosmoclimatologyから拝借し私が改変したものである。彼の宇宙線が雲を介して地球の気候に影響を与えるという仮説によると、太陽系が約2.5億年かけて銀河系を1周する間に星の密な銀河の腕と星がまばらな腕と腕の間を通過するときは宇宙線の量の違い(腕の時、宇宙線↑)によって気候が変わるという。そしてひとつの腕に入ってから次の腕にはいるまでの期間はおよそ1億4300万年という。さらに長期間宇宙線量が少ない期間を経過した太陽系が次の銀河の腕に突入する直前が一番地球の気温が高くなるのではないかとSvensmarkは推論している。図を見るとPETMおよびTOAEは共にその時期に一致していることがわかる。(ただし海水温の変化とは一致せず)またデボン紀後期に起こった5大絶滅事件のひとつF/F境界を参考までに図示している。これもまた時期は上二つに一致しているようだ。もちろん偶然の一致も否定はできない。さらにこれらの特徴や間隔をまとめたものが次の表である。
 
 
推定開始時期
間隔
温暖化・δ13C負移動
F/F境界
約3億6700万年前
 
不明
TOAE
約1億9000万年前
1億7700万年
PETM
  約 5550万年前
1億3450万年
 
TOAEとPETMの間隔は約1億3450万年とSvensmarkの推定にほぼ一致している。またF/F境界のOAEがPETM-likeイベントと言えるのかどうかはデータ不足で不明だが、F/F境界とTOAEの間隔は1億7700万年とSvensmarkの推定値よりはやや長いようだ。何といっても推定値自体が荒っぽいので誤差の範囲と言えなくもない。今後のCohenらの議論のゆくえとF/F境界研究の進展に期待しよう。
 
このような壮大なスケールの地球の気候史に触れると、枝葉末節、重箱の隅をつつくような「温室効果ガス」にこだわった現在の二酸化炭素温暖化説などはゴミのように思えてくる。そうするとありもしない危機を煽って研究費をかすめとっているモデラーをはじめとする研究者はさしずめゴミにたかるハエといったところか。(笑)
 
参考論文など
石浜佐栄子 ジュラ紀前期の海洋無酸素事変の研究に関する進展と動向 Bull.Kanagawa Prefect.Mus.(Nat.Sci.) No.36 pp1-16(2007)
 
 
悪魔のささやき 暁新世始新世温度極大期;6.北極圏におけるETM2の特徴
 
 
 
 
 
 
Svensmark,H:Cosmoclimatology: a new theory emerges Astronomy & Geophysics 48 (1), 1.18–1.24.(2007)
 
Svensmark,H & Calder,N:The chilling stars(2007)
 

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暁新世始新世温度極大期;6.北極圏におけるETM2の特徴

 Naturegeoscienceの2009年11月号にSluijsの論文が掲載されている。この雑誌は2年前の創刊号から購読しているのだが、あまりにもつまらない論文が多い(ばかり)ので購読するのをやめようかと思った矢先のできごとである。今、ちょっと迷っている。(笑)

以下抜粋
 Sluijsらは古緯度85°Nの北極海のLomonosov Ridgeの海底堆積コアからEocene Thermal Maximum 2(ETM2)温暖化イベントについてレポートをしている。ETM2は約5350万年前に起こったPETM(5550万年前)に次ぐ2番目の温暖化イベントである。(今後はonsetの年代は最も確からしい値ということでこの数値を使用;by はれほれ)ETM2時のCIEはさまざまな場所からのデータがあるものの、温暖化の証拠は亜熱帯南東大西洋の浮遊性有孔虫から得られたδ18Oの0.8%の負移動しか証拠がない。このイベントがグローバルな温暖化をもたらしたものかどうか北極圏でのデータが注目される。
 彼らはPETMから20mほど上位の層準でCIEとdinocystの生物学的層序学によってETM2を同定した。20cmほどの間に-3.5%のCIEを認め1m足らずの間に背景値に復している。(たとえばPETM時の高分解記録Bass Riverは約17万年のCIE期間で10.3mの堆積率である;by はれほれ)
 ETM2の期間は渦鞭毛藻のdinocystは低塩分耐性で富栄養を要求する種がメインになり、一方で海洋性の種が消失している。これはETM2期間の北極海表層水の低塩分化と富栄養化を示しており、これは地上由来の花粉や胞子の増加とともに北極圏での降水と河川からの流入の増加を示していると考えられる。ラミネートされた沈殿物の出現や有機有孔虫の内面(lining)が欠如しているのは底層水が無酸素状態(anoxic)を示している。この時期に一致して塩分耐性の渦鞭毛藻の最も豊富に存在しカロチノイドの誘導体である硫酸結合イソレニーラテン(isorenieratene)が記録されている。これは光合成緑色硫酸細菌の褐色strainに由来し、有光層が還元性(無酸素硫化的)状態であったことを示している。
 当時は陸域に近いロケーションで水深は200m程度と推定され花粉や胞子などの陸上由来の堆積物も多く見られている。花粉は種にメタセコイアなどの針葉樹が主だが、最も温暖だった時期に一致してヤシの花粉が1~4%に認められている。現存のヤシは花粉量が小さくこの低い出現率でもかなりのヤシがこの時期北極圏に存在したと考えられる。ヤシは最寒月平均気温(CMMT)が5℃以下の地域には自生せず、この時代北極圏のCMMTは8℃以上であったと考えられる。
 TEX86’(おそらくTEX86の改良版と思われる。5~30℃の範囲でSSTと直線関係があり、誤差は2℃以内)によるsea surface temperature(SST)の再構築ではETM2前後の背景SSTは22 1.4 °CでETM2期間には26~27℃に上昇している。
 ETM2とPETMを比較すると両イベントともに急速な温暖化、淡水流入の増大、生物学的生産率の増大、水柱の無酸素状態の発達を示している。さらにXRF scanがelemental intensityで同じパターンを示しており、Fe、Sにおける増強はPETMでは海底でのさらなる還元状態を反映していると解釈されているが、ETM2でも同様であり成層化と無酸素状態を示す証拠と一致している。これらの同一性は陸上、浅海、深海での質的に同じ気候応答をPETMとETM2は共有していると言えるであろう。またPETM時に見られた渦鞭毛藻とは異なる種がETM2では出現している。これは低塩分化がETM2の方が強かったため、降水や河川からの流入はETM2の方が大きかったか、地形的な影響のためと考えられる。背景となったSSTはETM2の方がPETMよりも約4℃高かった。実際にPETM時のピーク温度とほとんど同じであり、これは早期始新世の長期間の温暖化傾向と一致している。しかし北極海の温暖化は他の地域に比べて大きく、アイスアルベドフィードバックの欠如にもかかわらず極域では温暖化が増幅されている。ピーク時のSSTもETM2の方が3℃ほど高い。これはヤシの花粉の出現からも推測される。「CMMTが8℃以上」は早期始新世北極圏の冬季気温の最初の見積もりであり、早期始新世の二酸化炭素濃度と地勢学において強制されるモデルでは氷点より著明に低いCMMTを産生する。おそらくモデルには組み込まれていない雲を介したフィードバックが高CO2濃度のもとでの冬季北極圏の寒冷化を著明に減弱していると考えられる。それゆえそのようなメカニズムが顕著になる温室効果ガスの閾値と気候によって将来の北極圏の温暖化に対する予測がしにくい正のフィードバックを含んでいる。
 抜粋ここまで
 
ETM2でも世界規模の温暖化イベントと考えられ、なおかつPETMよりSSTは高かった。水柱の成層化が進み底層では無酸素(anoxic)な状態が続き、有光層も還元的状態であった。低塩分化もPETMより強かった。実は1.概要で書き忘れたのだが、PETM時は深海底はanoxicな状態になっており底性有孔虫の絶滅の原因と考えられている。この論文では大気中CO2濃度の推定値やCIEの原因となった12Cリッチな炭素の放出量や海水pHの変動の推定などには触れられていない。また地層の堆積率が小さいためCIEやSSTの上昇についての正確な順序も明らかにはなっていない。しかしやはり現モデルでは温度勾配の小さなSSTは全く再現できていないようである。Sluijsらは「雲のフィードバック」を候補に挙げているが、これも根拠のない推測に過ぎない。それよりも個人的には最近のSluijsの発言には切れのよさが感じられなくなっている。もしかすると温暖化派に寝返ったのだろうか?まさか・・・・・。
 
参考文献
Sluijs,A et al.Warm and wet conditions in the Arctic region during Eocene Thermal Maximum 2.Nature Geoscience 2.pp 777 - 780 (2009)

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暁新世・始新世温度極大期;5.ミランコビッチサイクルと気候変化

    LourensはWalvis Ridgeの堆積コアから第1の温暖化イベントPETMと第2の温暖化イベントETM2の時間間隔が約200万年であることをつきとめ、「堆積物のmagnetic susceptibility(磁化率)などの検討により両者ともに225万年の離心率周期の長期間に及んだ最小期の直後に起こった40.5万年と10万年の周期の最大期に一致して起こっていることを示している。」としてミランコビッチサイクルと地球の気候変化の関連について言及している。(暁新世・始新世温度極大期;3.繰り返す温暖化イベント参照)少し詳しく解説すると離心率には独立して変化する長周期約40.5万年と短周期約10万年がある。したがって二つの周期の最小公倍数、225万年に一度極端に離心率が大きくなり、地球の軌道は一番扁平なだ円となる。太陽はだ円の中心ではなく二つの焦点のひとつにあるので近日点と遠日点での太陽-地球間の距離の差が大きくなり、近日点では太陽から受ける日射が大きくなる。(距離の2乗に反比例)さらにWesterholdは「(温暖化イベントは)10万年と40.5万年周期の離心率周期によって調節された歳差運動の周期によって支配されている。PETMもETM2も10万年周期の最大離心率の時期に関連して起こっている。両者ともに40.5万年周期の最大離心率期の前後4分の1の時期に起こっておりPETMは最大離心率より遅れ、ETM2は先立って起こっている。」と述べている。これは短周期の10万年周期と長周期の40.5万年では短周期の方が最大離心率から数万年の違いで大きくずれてしまう。たとえば5万年のずれで短周期では離心率はかなり小さくなるが、長周期においてはその程度のずれでは離心率は最大値とあまり変わらないということである。したがって「10万年周期の最大離心率で40.5万年の最大離心率付近」というのはかなり離心率が大きな時期と考えられる。また「(40.5万年周期の最大離心率期より」PETMは最大離心率より4分の1周期遅れ、ETM2は先立って起こっている。」ということで最大離心率周期225万年より前後で約10万年ずつ二つの温暖化イベントの間隔は短いことになる。それが「約200万年の間隔」という意味だ。その前後の差を決めるのがおそらく歳差運動であろうと推定される。つまり離心率が大きな時期の近日点で北半球高緯度に大きな日射が入る地軸の傾きの場合に温暖化イベントが起こりやすいと考えられているからだ。それがSluijsのいう「ETM2は歳差運動と密接な関連がある」ということである。5000万年前のミランコビッチサイクルの推定誤差は2万年程度とされており、約2万年の歳差運動周期はほとんど誤差に含まれ計算による特定は困難であるが、X-ray fluorescence scanning(XRF)という方法が歳差運動を推定する手掛かりとなっている。
 ここで直近100万年の氷期間氷期サイクルに目を移すと、2007年のKawamuraらの有名な論文がある。氷床にトラップされた大気のうち酸素分子が窒素分子に比べて日射によって散逸しやすいというBenderによる指摘を利用してO2/N2比が局所の日射のマーカーとなりうることを示し、Vostok基地とドームふじの氷床コア分析結果とミランコビッチサイクルの関係を過去36万年にわたって精度よく再構築した。その結果軌道スケールでの南極の気候変化は北半球の日射に数千年遅れ、直近4回のterminationでは南極の気温と大気中二酸化炭素の増加は北半球の夏季日射の増加時期に起こっていることを示している。つまりミランコビッチサイクルによる北半球の温暖化が氷期の終わりとCO2濃度の上昇を引き起こしたことになる。(CO2が上昇して氷期を終わらせたわけではない!!)この論文はIPCC4次報告にぎりぎり間に合うタイミングでpublishされており注1、このことはIPCCもしぶしぶ(?)認めている。たとえば気象庁訳
 またobliquity(地軸の傾き)の重要性についても新しい知見が出ている。Obliquityは4.1万年周期で22.1°から24.5°まで変化している。現在の傾きは23.5°で今後これは小さくなる方向へ変化している。従来はobliquityが大きくなると季節により極端な気候になる(夏暑く、冬寒い)といわれるだけであまり重視されていなかったが、Drysdaleらは最終氷期から2番目の氷期のtermination(terminationⅡ;141,000 ± 2500年前)の開始にこのobliquityが重要な働きをしていると主張している。彼らは歳差運動によって北半球高緯度(65°N)の夏季日射が大きくなるよりも早く氷床の融解が始まっており、これはobliquityの変化によるものであるとしている。さらに最終氷期のtermination(terminationⅠ)もterminationⅡと3つのobliquity周期を隔てた同一のフェイズで始まっていると指摘している。すなわち両者は周期41,000 x 3=123,000年の間隔で起こっている。リンク先のアブストラクトにはどういうフェイズで起こったかについては触れられていないが、ウィキペディアのグラフを見ると両者とも地軸の傾きが極小値から増大していく時期に一致している。やはりこれも北半球高緯度の夏季日射の増加につながる軌道変化である。
 なぜ北半球高緯度の日射が重視されるのであろうか?氷期間氷期サイクルの場合はアイス・アルベド効果を考えればそれなりに納得できるのだが、PETMにおいてはSluijsが再三述べているようにPETM前の北極海のsea surface temperature(SST)は17℃前後でありアイスフリーであったと考えられている。とてもそのような正のフィードバックが起こる状況ではなかったはずだ。ただPETM時にも温度上昇に伴って海水準の上昇は認められており、高山などには少量の氷床が存在した可能性が高い。これもPETMの謎のひとつである。さらにSluijsによると、このような高緯度と低緯度のSSTの差が小さい海洋環境というのはたとえ当時の海陸分布をインプットしたとしても現在の気候モデルでは全く再現できないということである。気候モデルがいかに現在の状態にadjustされた不完全なものかということを物語るひとつの証拠である。自然現象を物理法則に従ってきちんと再現しているのならPETM時代の地球を再現できるはずだ。できないということはそれ自体が欠陥品であるということである。
  昨年10月カナダで行われた2008 Gussow-Nuna Geoscience ConferenceにおいてSluijsがゲストスピーカーとしてしゃべっている。私は残念ながら参加できなかったのだが、このサイトから彼の講演にアクセスできる。世界的な研究者の生の声に触れることができる貴重な機会であるので興味のある方はぜひ聞いてみてほしい。
  現在でもミランコビッチサイクルの条件が揃えばPETMのような温暖化イベントが起こりうるのだろうか?あるいは、当時は特別な条件だったから起こりえたのか?それならその条件が揃えば他の時代にもPETM-likeイベントは存在したのだろうか?こうして疑問はどんどん大きくなっていく・・・・・・・。(続く、予定)

注1:この論文はIPCCの四次報告には間に合っていないようです。失礼しました。(2009年10月17日)

参考論文
 
 
 
 
 
 
Bender,M.L.Orbital tuning chronology for the Vostok climate record supported by trapped gas composition. Earth and Planetary Science Letters.202:pp275-289(2002)
 
Drysdale, R. N. et al. Evidence for Obliquity Forcing of Glacial Termination II.Science  325. pp. 1527 – 1531(2009)
 
 
 
参考サイト
 
IPCC第四次報告気象庁訳第6章古気候
 
ウィキペディア:完新世の気候最温暖期
 
 

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暁新世・始新世温度極大期;4.CIEに先行する温暖化

  PETMに代表される温暖化イベントにおいて「温度上昇が先かCIEが先か」という問いは原因論にもかかわる重要な問題である。深海底の掘削コアでは堆積率が小さく、約17万年におよぶPETMの全期間においても層準の厚さは3m未満である。それゆえオンセット時のCIEや海水温上昇の順序はいくつかの地点では「海水温の上昇がCIEより先行している」と考えられるものの、多くは「ほぼ同時期に起こっている。」としか言いようがないのも事実である。(2.CIEの原因)この問題に決着をつけたのが2007年12月にNature誌に発表されたSluijsらの論文である。彼らは堆積率の比較的大きな大陸沿岸部のNew Jersey Shelf(古緯度40N)の2か所(Bass River と Wilson Lake)の掘削コアから分解能のよいデータを提示している。
Sluijs2007Nature.jpg
 図は
Sluijs,A . et al. Environmental precursors to rapid light carbon injection at the Palaeocene/Eocene boundary.Nature 450:pp.1218-1222(2007)より


  図から明らかなように、まず亜熱帯性渦鞭毛藻Apectodiniumのシスト(Dinocyst)の大量出現(アクメ)注1)がCIEより4000~5000年早くおこり、その後でTEX86注2)による海表面温の上昇がCIEより3000年ほど先んじて起こり最後にCIEが起こっている。このデータを見る限りCIEはPETMの原因ではなく結果であると結論せざるを得ないだろう。(温暖化論者は未練がましいけどね!)このデータから何らかの環境変化が起こったことがPETMの端緒と考えられる。それから海表面温の上昇が起こり最後にCIEつまり12Cリッチな炭素の注入が起こっている。Sluijsらは海表面温の上昇からCIEまでの2000~3000年のタイムラグは海表面温の上昇が海洋の深層水温の上昇、さらに海底堆積物を溶かすまでの期間として矛盾しないとして1995年のDickensらの見解を支持している。CIEはPETMの原因ではなく結果である。そして、最初の温暖化の原因は今のところ不明と結論している。
 図を見るとCIE以後もTEX86による海水温は二地点ともに一定期間上昇を続けている。これはCIEによる温度上昇の「上乗せ」ともとれるが、PETMを惹起した初期の温度上昇の原因が継続したためと考える方が妥当であろう。論文中にはこの点に関する記載はないようだが、Sluijsは彼のサイトのPETMに関する記述「General Introduction and Synopsys」の中で次のように述べている。
「We show that the onset of the global acme of the dinoflagellate Apectodinium and subsequent surfaceocean warming as recorded by TEX86 preceded the CIE by ~5 kyr and ~3 kyr, respectively. Considering that no evidence of any additional environmental change at the CIE is apparent from our records, the input of 12C-enriched carbon may not have caused significant environmental perturbations.」
「我々は渦鞭毛藻ApectodiniumのDinocystの世界的なアクメがCIEより5000年先立っており、続くTEX86によって記録された海表面の温度上昇がCIEより3000年早いことを示している。CIEの時点では何ら付加的な環境変化の証拠が我々の記録からは明らかでないことを考慮すると、12Cリッチな炭素の流入は何ら重大な環境擾乱を惹起しなかったのかもしれない。」(ブログ主の一応の訳)
 
多くの研究者が「炭素流入=温暖化」というロジックから抜け出せない中、自身の研究に絶対の自信を持ち微塵の先入観や偏見も持ち合わせていないコメントである。さすがはこの分野で若手No.1と目される研究者である。これとは対照的に先入観と偏見に満ちた論文の例をみてみよう。たとえばNisbetらはSluijsらの上記論文を受けて、PETMにおける初期のCIE以前の温暖化について「安定炭素同位体比には影響を及ぼさない程度のメタンハイドレート(MH)が持続的に大気海洋系に流入した。」としている。炭素同位体比に影響を及ぼさないような量のMHの融解がこれほど大きな温度上昇をもたらすことは考えにくく、逆にこれほどの温度上昇をもたらすようなMHの流入ならCIEが起こらないはずがないのである。このような矛盾した仮定を平気で行ってしまうのはどうしても「温室効果による温暖化」から発想が抜け出せない典型である。また「気候感度から考えてPETMの温暖化の原因はCIEの炭素だけでは不十分」というZeebeらの論文を紹介したが(2.CIEの原因)、その解説としてBeerlingは「我々がまだ知らない気候の正のフィードバックがあるのではないか」と訴えている。論文著者のZeebeらが「温暖化を説明するには(炭素流入以外の)何か他の要因が必要である」と明確に述べているにも関わらず「実は気候感度はもっと大きいのではないか」ということである。もはやこれにはあきれてしまうしかない。彼らには目の前のデータさえ全く見えていないようだ。データを正面から見れば無理なこじつけ理論であることは明白だが、「温室効果による温暖化」にこだわってそれ以外のことは考えられない思考過程に陥っているためそのことがわからないのである。まさに典型的な温暖化論者としかいいようがない。

本項の要旨の一部は日本気象予報士会西部支部2008年1月例会(2008年1月12日)にて「暁新世・始新世温度極大期最新の知見」として述べたものです。
 
注1)
渦鞭毛藻は単細胞のプランクトンで基本的に独立栄養であるが、そのライフサイクルの一時期には従属栄養の形をとる。環境の変化、主として貧栄養状態などに陥ると休眠型のシスト(Dinocyst)を大量に作り、このシストのみ化石として残存することが可能である。Dinocystが急増したことは何らかの環境変化が海表面温の上昇に先だっていたことを示している。
 
注2)
TEX86(‘tetraether index’ of tetraether lipids consisting of 86 carbon atoms)は栄養状態や塩分とは無関係に古水温のマーカーとなる膜脂質の成分である。近代の堆積物で調べると年平均海表面温と直線関係が認められている。(海水温の絶対値も推定可)
 
Nisbet,E.G.et al.Kick-starting ancient warming.NatureGeoscience 2:pp156 – 159(2009)
 この雑誌は購読者でないと見れないかも。(陳謝)
Beerling,D.J. Enigmatic Earth. NatureGeoscience 2:pp537 – 538(2009)
 この雑誌は購読者でないと見れないようです。(陳謝)

Sluijs,A . Global change during the Paleocene-Eocene thermal maximum. General Introduction and Synopsys.p14
 
 
 

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自称、気象予報士。

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